リフレーミングについて。あるいは「井の中の蛙」について(忘備録シリーズ)

先日、リフレーミングについて話す機会をもらったので、またもやその忘備録です。最近、忘備録が多いな(^^; なお、話してからちょっと時間がたってしまっているので、内容が少し変化しているかもです。

1 はじめに

1.1 時代劇が好きだということ

最近、NHKで土曜日の夕方にやっている子連れ新兵衛をよく見ます。こういう時代劇とか、寅さんとか釣りバカ日誌とか、結構好きなんです。予定調和的(!?)というと語弊があるかもしれませんが、最後はこうなるだろうなと思いながら、見るのが好きなんでしょうね。結構いまはご存知の方が少なくなってきましたが、むかし刑事コロンボが好きだったのも、結末が分かっていても、どういう手順でそれを明らかにしていくかという過程を知るのが好きだったのではないでしょうか。

そうそう、時代劇の話でした。そう、時代劇を見ると、結構決まり文句が多いんです。例えば「あいつ、井の中の蛙じゃねえか」とか出てくるんですよね。そうすると、一応言葉を教えてお金をもらうという職業についているせいか、どうしてもその言葉が気になってきます。自分でいうのはアレですが、言葉には敏感なんです(笑)。

1.2 「井の中の蛙」とかことわざとか。

ところで、「井の中の蛙」ってどういう意味でしょうか。当然「井戸の中には、蛙がいることもある」という確率論の話ではないですよね。そうです、井の中の蛙、大海を知らず」の後半が省略されていると考えられます。

ところが、飲み会とかで「あれで終わりじゃないんだよ」とおっしゃる方がたまにいらっしゃいます。ええ、酔ってらっしゃいます。説教が突然始まるわけです。「お前、あのことわざみたいなやつの意味は、『視野が狭くちゃいけないよ、ちゃんと世界を見て視野を広げないといけないよ』という意味だと思っていただろ!?」なんて怒られるわけです。で、「なるほど、なるほど」とか適当にあわせながら聞くと、「あれはな、後に続きがあるんだ。井の中の蛙、大海を知らず。されど、空の深さを知る』って言うんだよ。深い言葉だろ!? 蛙は視野は広がってないかもしれない。だが、1つのところにしがみついて一所懸命ずっとやっていると専門性がついてくる。深いところまで分かる人物になる。それがいいんだ。もともとは、そう言う意味なんだ。そういうことまで分かって指導しないとな!」とおっしゃるわけです。なるほどなーと思いますよね。

よく考えると、ことわざってこういうのが多いですよね。「情けは人の為ならず」も、「人のためにはならない」と思っていませんでしたか。僕は思っていました。あれは「優しくするのは人の為ではない。自分の為だよ」という意味なんですよね。口伝って文字がない世界なので、結構こういう間違い、勘違いが多いんですよね。「アルプス1万尺」とかも子ヤギの上で踊ってしまったりして、あとで事実を知って「ええ!?」ってなりますよね。

1.3 「ええ!?」は大事

でもですね、実は、この「ええ!?」というのが大事なんです。最初思っていたことと違うことが分かって、「ええ!?」となる。で、大袈裟にいえば、この世界の見方が変わるわけです。私たちは、自分たちの「見方」を通して、この世界を見ていますが、この「見方」を「枠」、つまり「フレーム」と呼ぶ人もいます。絵画も枠を変えれば、絵画自体は変わっていないのに、違う絵のような印象をもったりしますよね。我々も思考の枠を変えると世界の見方が変わります。この世界の見方が変えるよう認知に変化をもたらすことを、枠を英語でフレーム(frame)というので、フレーミング(reframing)といいます。今日は、このリフレーミングの話をしますね。

2 リフレーミングの例

2.1 他の例

フレーミングって聞くと、難しそうに聞こえますが、そんなに難しい話ではありません。他の例を出してみましょうか。

鹿児島県内にコンビニがたくさんありますよね。実は、コンビニで最近気になることがいくつかありますよね。何か分かりますか。はい、桜島の近くのコンビニは看板が茶色いですね。そうですね、環境に合わせて、色をかえていますね。他には何かありますか。・・・そうです、ポールサインと呼ばれるそうですが、コンビニの道路脇の看板が低い位置についていますよね。気づかれてました? 大丈夫です。知ると急に意識するようになりますから。気になる方は、googleで「コンビニ、看板、低い」で画像検索してみてください。これ、なんで低いのが最近多いんですかね。一説には、低くすると建築法か何かで届出が少なくて済むからという意見もあります。また、鹿児島といえば、台風の影響が大きいですよね。なので、台風で折れるのを防ぐためという説もあります。さあ、みなさん。これまでコンビニの看板があまり気になることはなかったと思いますが、いま、こうやっていろいろと知ると急に意識し始めるんですよね。これがリフレーミングの力ですね。世界の認知が変わるのです。

2.2 ICTの"C"とは?

他にも、ICTってよくいいますよね。あれ何の略ですか。そう、Information and Communication Technologyですよね。実はCってコミュニケーションってご存知でしたか。Communicationがなければ、ITですよね。冗談だと思いますが、「ICT、Communicationなければ、単なる『もの』(=IT)」と言った方もいます。「ICTを活用した授業」と言われたりしますが、コミュニケーションがどう行われているかということにも意識する必要がありますね。そう考えると、またICTの活用も、単に機械を活用すれば良いということから、コミュニケーションがちゃんと起こるようにしなくてはと意識も出てきます。本来は、ここでのCommunicationとは通信という意味でしょうけど、そうとも考えられるんですよね。これもリフレーミングの1つだと思っています。

フレーミングについて、だんだんと分かってこられましたか?

3 カリキュラム・マネジメントとリフレーミング

3.1 カリマネのこと

さて、ここでカリキュラム・マネジメント、いわゆるカリマネとリフレーミングの関係について語ります。おそらくこうじゃないかなというレベルなのですが、ちょっと聞いてみてください。

学習指導要領が新しくなって、さまざまなterm(用語)が増えています。例えば、「カリキュラム・マネジメント」もそうですね。「主体的・対話的で、深い学び」もあります。「資質・能力ベース」という言葉もありますね。

さて、カリマネのマネは経営とか管理という意味ですが、カリマネって何をするんですかね。そうですね。カリキュラムは教育課程を意味するので、教育課程をどう管理していくか、経営していくかという話になると思います。でも、教育課程っていうと、教育課程表って各学校にあると思いますが、あれは何を表していますか? そうですよね。授業ですよね。どの教科や科目が何単位あるかを示しています。つまり、授業ですよね。

3.2 学校教育目標のこと

ここで、1つ質問ですが、学校でどんな子ども達を育てたいかということは何に示されていますか。そう、学校教育目標ですよね。学校教育目標で、「知徳体」とか「かしこく、やさしく、たくましく」などと示されたりしています。でも、あの学校教育目標と授業ってどうつながってます? 校長先生が、こんな子ども達を育成したいと学校教育目標を設定する。で、学校の大きな部分は授業です。目標つまりPlanを達成するためには、授業=Doで達成する必要がある。でも普段授業では、学校教育目標を意識していなかったりしますよね。

なので、最近、学校教育目標を基に「児童生徒が身につけたい資質・能力」を明確化する学校が増えています。例えば、山梨の吉田高校では吉田GPを設定しています(https://berd.benesse.jp/up_images/magazine/VIEW21_kou_2017_06_jissenjirei_01.pdf)。なるほど、という感じですよね。でも、授業にどう落とし込めばいいのでしょうか?

3.3 新学習指導要領の資質・能力

ところで新学習指導要領で定められている資質・能力とはなんだったでしょうか。覚えていらっしゃいますか。そうですね。下の画像にあるように、「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「そして学びに向かう力、人間性」の3つですよね。そして、全教科この3つを基に、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」で評価することになっていますね。この観点別学習状況の評価は今回の改定から、全教科共通になりました。でも、なぜ全教科共通にしたのでしょうか。(絵はこちら

3.4 2つの関係性

さて、ここまで見てきた、ご自分の学校の「児童生徒が身につけたい資質・能力」と、この「文科省が示した資質・能力」とはどんな関係になっているのでしょうか。それを考えたいですよね。

よく、この2つが結び付けられていない例がみられます。でも、学校の「児童生徒が身につけたい資質・能力」を「文科省が示した資質・能力」と紐つけると、実は学校の授業でどのような資質・能力を身につけさせるべきかはっきりしてくるんです。そしてまた、各教科では評価を必ず行っているので、「児童生徒が身につけたい資質・能力」が多くの子ども達の身に付いているかがCheckできるようになってるんですよね。こう考えると、しっかりと考えて計画すれば、Plan-Do-Check-Act(ion)のPDCAサイクルがちゃんと回るように考えられているのが分かります。また、各教科の指導計画をA3で1枚の進度一覧表にして、どの資質・能力をいつどのようにつけようとしているか確認していくと、各教科の連携が取れていくんですよね。

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上の図でいうと、学校教育目標から考えた資質・能力を(すいません、割と結構適当に作りました)ばらばらのままでなく、下のように、評価の観点で捉え直してみる。すると、授業で学校としては、どういう資質・能力を授業や行事で身につけたいのかはっきりするし、言語化すれば、先生方も共通認識をもって取り組みやすくなるんですよね。

で、そう振り返って考えてみると、自分の学校はどうかなあ、児童生徒を伸ばす目標である学校教育目標を授業でどのように伸ばそうと考えていて、その結果はどうだったか示されるシステムになっているかなあなどと考えるようになります。そうではないですか?

3.5 整理しましょう

整理します。

  • 学校教育目標をもとに、学校の「児童生徒が身につけたい資質・能力」を明確化する学校が増えている。
  • 全教科「観点別学習状況の評価」の観点が3つに整理された。
  • カリマネという言葉がキーワードになっている。

で、これは多分、バラバラのこととして先生方の心の中にあったと思うのです。しかし、実は自分たちが直接教えている児童生徒を考えて設定した学校教育目標をもとに、授業で伸ばすべき資質・能力を明確化し、児童生徒の評価というツールを通して自分たちの授業も同時に評価する。そして、よりよく児童生徒を育成できるようなシステムを作る。これがカリキュラム・マネジメントの1部分を表しているということをいま説明しましたが、どうですか。1つ1つのことがつながっていき、全体像が見えるという、リフレーミングがみなさんの心の中で起きはしないでしょうか。起こっていたら、この話は成功です。しかし、起きちゃったら実はちょっと大変です(笑)。リフレーミングが起きると、行動を変えないといけないと思ってしまうんですよね。

認知の力ってすごいんです。知るともう戻れないし、知ったことは自分の行動を変えていく。授業というのは、実はそういうものだと思います。昨日まで知らなかったことを学んで、子ども達の認知だけでなく、行動を変えていく。そういう営みだと思うんですよね。で、学校というのは、授業がそうなるように最適化したシステムをもっているべきだと僕は思います。

4 終わりに

だいぶ、長くなりました。僕のこのカリマネの捉え方は間違っているかもしれませんが、ずっと考えてきて、やっと腑に落ちた考えです。また、ご自分でも考えてみてください。

そうそう、言葉を扱う者の端くれとして、最初の「井の中の蛙」はどれが正しいのか、いま流行りのFACT CHECKを行いました。『井の中の蛙、大海を知らず。されど、空の深さを知る』の出典は何か調べてみたわけです。すると、ないんですよね。おそらく、荘子ではないかと言われていて、「秋水篇」に「井蛙不可以語於海者、拘於虚也」という言葉があるので、その箇所が「井の中の蛙」となったのではないかと。そして原文には、「空の深さを知る」は全然出てきません。だから、伝承されるうちにきっと頭のいい方が付け加えて、リフレーミングを起こさせようとされたのでしょうね。あら、そう考えてみると、この「井の中の蛙」は実は3回リフレーミングを起こさせていることが分かります。

  1. 井の中の蛙、大海を知らず」という言葉を知る。
  2. 井の中の蛙、大海を知らず。されど、空の深さを知る」であると説教を受け、ことわざの意味が変わる。
  3. 実は原典にはそのような言葉はなく、原典は「井戸の中の蛙と海のことを話すことができないのは、本当のことを知らないからだよ」ぐらいのことしか載っていないと知る。だまされたと思って飲みに行って誰かにこのことを話したくなる(そしてまた被害者が…(笑))

世の中は複雑ですね。リフレーミングは日々、様々な形で起こります。授業でもまた子ども達にこのリフレーミングの楽しさを味わせたいものですね。

(話したことは以上です)