個人的な話だが、ミカンの話にハマった。
友人と昼歩くことが多い今日この頃、突然友人が「みかん、ぽんかん、たんかん、きんかん」は何故「かん」で終わるのか、と語源マニアの心をくすぐり過ぎる問題を含む発言をおこなった。で、自称語源マニアとしては早速調査を開始した。
まず日本語なので、当然「日本国語大辞典」を検索である。すると「柑橘類」「温州みかん」「Satsuma」などの言葉がヒットした。ものの本によると、柑橘類とは、柑子(こうじ)と橘(たちばな)の2つから名付けられているとわかる。つまり、昔からこの2種類があり、区別されていたことが類推される。日本国語大辞典によれば、宇津保物語に「梨・かうじ・橘・あらまきなどあり」という文章があるとされているが、ただし橘がどの果実を指し、柑子がどの果実を指していたかについては、SNSがなかった昔のことでもあり、英語のTurkeyを彷彿とさせる。Turkeyもトルコ鳥と名付けて呼んでいるが、トルコではインド鳥と呼んでおり、さらにインドでは・・・と混乱・混同の歴史が見える語として有名である。
ちょっと話がずれたが、ある程度は柑橘類として一括りで考えても良さそうな感じではある。ただし、日本の「橘」については、酸味が強くて食べずに観賞用としている向きもあり、一般的に食べていたのは柑子だった可能性も高い。この辺りの経緯については、森田(2015 Click)や田邊(2015 Click)に詳しい(前者は5果とは何かの丁寧な描写があり、後者は昔の人は本当に「花橘の香り」を嗅いだのかに関する考察等があり、読み物としても楽しい)。
で、その柑橘類だが、前述したように昔から酸っぱい種類と甘い種類で分けていたようだ。ミカンは、それまでの酸味の強い橘等が主流であったところに、蜜のように甘かったことから「蜜柑」と呼ばれた説がある。名前の由来を考える際に、このように総称としての「柑子」がまずあることを捉えることが大事だ。なお、この「子」という漢字を奇妙に思うかもしれないが、中国語では果物に「子」をつけるのは割と一般的である。例えばオレンジは「橙子」で、桃は「桃子」である(だから、桃子さんという方がいたら、その方のあだ名がモモなのは当然と言える)。ただ、中国語では現在ミカンは「柑桔」(がんじゅ)であり、少し表記が異なる。
で、食べられる甘い種類のものはとりあえず「柑子」と捉え、それぞれの特徴を形容詞的に「柑子」の前につけたと考えればすっきりとする。つまり、金色の柑子=金柑=キンカン、Poonaの柑子=ポンカンと捉えることが可能だ。ただし、ポンカンについては、ちょっと調べるとインドのMaharashtra州にあるNagpur市(州の第3の都市。1番大きいのはMunbai)の方がPoona=Pune市(州の第2の都市。同じ州だがNagpurと700kmぐらい離れている)よりもオレンジについては有名なようだ。きっと、Nagpurで取れた果実をPoona市を経て商人たちが買った経緯とかあり、Poona柑子と呼ばれ始めたのでははないかと類推される。最後にタンカンは漢字は「桶柑」であり、台湾を由来とする。台湾ではタンカンを桶にいれて売っていたからと多くのサイトに書かれており、中国語でもTankanである。英語名もCitrus Tankanとなっている。
このように多くのものは「出自or特徴+柑子」の短縮形であることがわかる。個人的には柑子の部分は橘でなくて良かったと感じる。言い慣れていることもあるかとは思うが、「みたちばな」とか「ぽんたちばな」とかがまずあって、短縮形が「みたち」や「ぽんたち」よりは「みかん」「ぽんかん」の方がしっくり来る。
というわけで、調査結果としては、「なぜ柑橘類に「〜かん」とつけるのかは、食用のみかんの総称はむかし「柑子(こうじ)」と呼んでおり、各種類はその漢字と組み合わせつつ、かつ短く呼んでいるから(ただし柑は「かん」と読む!)」というのが答えだろうと思う。ただし、気をつけないといけないのは、実は英語でもポンカンはPonkanであり、その語源は""Pon" harkens to the "Poona orange" of original stock and "kan" means citrus fruit."(ポンはもともとの出自のプーナオレンジと柑橘類を意味する「柑」に由来する)とWikipediaに掲載されており、そもそも日本に来る前に中国語で名付けられ(タンカンやポンカンはその可能性が高い)、その語及び漢字を日本語に輸入した可能性もある(例えばスイカは中国語では西瓜 [xī guā](しーぐぅあ)であり、やがてすいーが→すいかと日本で音変化を起こしたことも類推される)。
とここまで友人の問いに答えをしっかりと(!?)書いたところで、それはそれでいいのだが、もう一つの話題を。
今回の主題となっているのは未完了である。「みかんりょう」だけに前振りとしてミカンのことを書いたが(え、前振り!?)、未完了という概念が発達していなかったために今回は問題を解けなかった。
詳しくは述べないが、昨年度の言語学オリンピックの国内予選問題(2022SE)(くりっく)の5番のティンリン語の問題である。
日本言語学オリンピック(JOL2023)
— 国際言語学オリンピック日本委員会 (@iolingjapan) December 15, 2022
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結構解答としてはいい線をいっており、割と答えはほぼ自分なりの解答と一致していたが、どうしても答えを出す際に進行形と過去をどうして良いか処理に困っていた。2時間程度奮闘した挙句諦めて解答を見たのだが、未完了という概念があることを知り、驚いた次第だった。しかも、動詞が目的語によって変化とかサピア=ウォーフもびっくらぽんな概念・・・。これ以上はネタバレになるので書かないが、相と態(アスペクトとヴォイス)や言葉による現実世界の切り取り方(ようするに見方だな)についてはまだまだ勉強が足りないと改めて思ったので、さらに勉強を続けたいと感じた(と割と真面目に書いているが、要は言語学オリンピックの問題をすらすらと解けるようになりたい)。
ま、時間をつぶすには大変よく、あっという間に2時間程度は暇を潰せるので、ぜひこの一連の言語学オリンピックの過去問をお試しあれと思っているが、なかなか同士は出ない。それこそどうして?やってみかん?(謎)と思う今日この頃なのであった。(終わり)