「主体的に学習に取り組む態度」の指導と評価

高校の先生方から、主体的に学習に取り組む態度をどう評価すれば良いかという質問がよく寄せられることが多い。これまでは平常点として、小テストや宿題の提出状況を評価の材料としてきたので、急に「主体的に学習に取り組む態度」を評価するようにと言われてもどうしてよいか分からず、困惑するという悩みは十分理解できる。図で示すと、例えば以下のように評価したらダメですよ!と言われることが多いのではないだろうか。

主体的に学習に取り組む態度の評価でよく「ダメ」といわれること

「では、どのように評価すればよいのか?」とよく質問されるので、私見とともに、具体的な考え方についてまとめてみたい。

評価方法が大きく変わったため、「学校で定める」と言われてもどうしていいか、とよく言われます(汗)。

スタバの例から考える

これまで、多くの人々がスターバックスに追いつこうと良いコーヒーを提供したり努力してきたが、スターバックスにはなかなか勝てなかった。その理由は、スターバックスが提供していたのは高品質なコーヒーだけでなく、"The third place"という概念を具現化でもあったからというのは有名な話だ。結局のところ、この話はコンセプトの重要性を伝えるものだと考えられる。スターバックス自体も、単に物理的に「第三の場所」を提供するだけでなく、そのマインドセットも提供する方針に進化していると言われている。

話が少し長くなったが、「主体的に学習に取り組む態度」も同様にコンセプトの理解が大事になるのではないだろうか。なぜなら、そのコンセプトを理解しないと、「小テストで良い結果を収めた場合、それは主体的に学習に取り組んだからと考え、小テストの点数を評価の材料としても妥当ではないか?」などの質問が生じることとなるからだ。では、具体的にそのコンセプトとは何なのか、考えてみたい。

「主体的に学習に取り組む態度」とは?

基本に戻り、主体的に学習に取り組む態度の評価について、NITS(国立教育政策研究所)が出している「学習評価の在り方ハンドブック(高等学校編)」(クリック)をまずは参照したい。

「学習評価の在り方ハンドブック(高等学校編)」の抜粋

上では、以下のように説明されている。

  1. 知識及び技能を獲得したり,思考力,判断力,表現力等を身に付けたりすることに向けた粘り強い取組を行おうとする側面と,
  2. 1の粘り強い取組を行う中で,自らの学習を調整しようとする側面,という二つの側面から評価する

「知識及び技能」の獲得、「思考力,判断力,表現力等」を身に付けるための粘り強い取組、そしてそれについての自己調整の2点が説明されている。また、学習の調整が知識及び技能の習得などに結びついていない場合には、適切な指導が必要という箇所も大事ではないだろうか。

では具体的にどうするか

ごくごくシンプルに言えば、「主体的に学習に取り組む態度」は、「知識及び技能」、「思考力,判断力,表現力等」の習熟と深く関連していると考えられる。言い換えれば、生徒自身がこれらの資質や能力を習得するために、「主体的に」どのように学ぶかを考え、調整する必要がある。では、具体的にどのように指導や評価を行えばよいだろうか。

この点については、Arcleの記事(p.21)で長沼先生も述べていらっしゃるが( https://www.arcle.jp/report/2021/pdf/ARCLESYMPO2021_Part2.pdf )、中学校の「「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料」(外国語)のp.81の表がわかりやすい。特に参考になるのは、表中に黄色の矢印で示した以下の3点である。

  • 目標と、その目標達成に向けた具体的な工夫について考えさせている。
  • 単元の途中でも振り返りの場面を設定し、曖昧な「しっかり頑張る」等ではなく具体的な学習方法を考えさせている。
  • 最後の振り返りの場面で、目標達成だけでなく、「変容の理由」を書かせて効果的な学習方法を言語化し、意識させる工夫がある。
中学校の「参考資料」にみられる指導例(黄色の矢印は筆者)
気をつけたいこと

ここで特に気をつけたいことは、「主体的に学習に取り組む態度」であり、生徒が目標に向かって自分自身で学習に取り組む必要がある。そのため、例えば、先生が小テストの範囲を示し、テストに向けて勉強させても、それは主体的と言えるかは難しいところだ。一方で、例えば、単元のキーワードを一緒に考えて、「大事な単語の意味や綴りを8割以上正確に覚え、適切に語彙を理解または使用できる」という目標を共有し、「では、この目標達成のために自分はどのような具体的な工夫や学習ができるだろうか」と一緒に考えると、その後の学習がある程度主体的になることが期待できる。目標は共有する一方で、具体的な学習行動や学習方法については、自ら決めさせることもまた重要だと感じる。

「指導と評価の一体化」なので、評価するだけでなく、どう指導するかも大事です。上の指導例は単元の導入、展開、週末で、どのように指導すればいいか参考になりますね。

具体的な指導の手順

以上のことから、単元の「知識及び技能」、「思考力,判断力,表現力等」の目標を生徒に提示し、どう学ぶか、生徒自身が考えることが重要だと言える。そして、その学習の取組み状況を評価することが、「主体的に学習に取り組む態度」の指導及び評価となるのではないだろうか。以上のことより?指導の流れの例としては、以下のようなステップが考えられる。

「主体的に学習に取り組む態度」の指導を取り入れた単元の流れの例

評価の手順

単元としてあくまでも大事なのは、「知識及び技能」及び「思考力,判断力,表現力等」の目標達成である。言い換えれば、単語などをしっかりと覚え、目標としたスキルを習得できたかという点が重要となる。その学習プロセスの質と量の評価が、「主体的な学習に取り組む態度」の評価となる。ここでの質とは学習プロセスの効果を指し、量とは粘り強さや自己調整の程度を表すが、以下のように考えることが可能ではないだろうか。

質の評価

質、つまり学習プロセスの効果を評価する際には、単純に「知識及び技能」の習熟度や「思考力,判断力,表現力等」の目標達成度を評価材料の1つとすることが可能だ。逆に言えば、これらの目標を達成できなければ、学習に時間や労力をかけていても、学習の仕方が適切でない可能性が考えられる。生徒の将来を考えれば、単語や文法等の学習法を把握している方が役立つ。そのため、指導者としては、学び方が分からず、時間や労力をいくら費やしても成果がなかなか出ない生徒に対して、一緒に学び方を考えるなどすることが重要ではないだろうか。以上のことから、端的に言えば、資質・能力である「知識及び技能」の習熟度や「思考力,判断力,表現力等」の目標達成の程度から学習プロセスの質、つまり「主体的に学習に取り組む態度」の評価が可能だと考える。

量の評価

生徒が目標達成に向けて、粘り強く自己調整しながら学習できたかどうかについては、ポートフォリオやICTを活用した学習頻度などを評価の材料の1つとすることが可能である。生徒自身や他の生徒と共に、学習の最初と最後の段階を動画などで記録すれば、学びの結果について自己判断することもできる。生徒の振り返りシートを基に「知識及び技能」、「思考力,判断力,表現力等」の目標達成に向けて、何をいつからどの程度取り組んだかを確認することで、粘り強さと自己調整能力の評価も可能となる。ただし、重要な点として、時折「振り返りシート」自体を評価する事例が見られるが、評価すべき対象はあくまで、「知識及び技能」及び「思考力,判断力,表現力等」の目標達成に向けた主体的な学習プロセスであるため、「振り返りシート」がよく書けているかなどと、シートの内容のみで評価はできないことに留意したい。

よくある質問

と、ここまで書いてきたが、次のような質問がよくある。各学校で定めればいいことではあるが、忘備録としてここに書いておく(あくまでも個人の意見です)。

(1) もともと英語が得意な生徒で、あまり努力しなくても本人が目標達成できる場合、評価はaでしょうか。

目標達成に向けて、効果的な学習プロセスを学ぶことが重要だと個人的には考える。もし目標達成が簡単にできる場合、その生徒にとっては目標が適切ではない可能性がある。だが、同時に評価を公正に行うためには、個々の生徒が各自の評価規準を設定できるかどうかもまた、慎重に考慮する必要がある(ただし、個別最適な学びの指導に対する研究が進めば個々の生徒が個々の学習目標を定めるようになるかもしれない)。個人的には、現在のところは、目標はそのままにして、「記録に残す評価」としては生徒にaを与えながら、その生徒に他の生徒とは異なる、楽しそうでやりがいのある挑戦的な課題を提供し、記録には残さずに一緒に楽しみながら学習を進められるよう手立てを講じつつ評価をするなどの工夫ができると考える。

(2) 3つの観点のうち、他の2つの達成状況がbでも「主体的に学習に取り組む態度」だけaになることはありますか。

主体的に学習に取り組み、「知識及び技能」、「思考力,判断力,表現力等」の目標達成を行うことがあくまで重要であると考えれば、他の2つの資質・能力の評価がbなのに、主体的に学習に取り組む態度の評価だけがaとなるのは考えにくい。時間や労力をかけても「知識及び技能」、「思考力,判断力,表現力等」の目標を達成できない場合、努力の方向性が適切ではない可能性がある。その場合に生徒にaを与えて「それで良い」と指導者側が示すことは、教育的に適切かどうかという観点からの判断が必要となる。

(3) 授業に参加しない生徒や、欠席が多い生徒の評価はどうなりますか。

これもよく話題になる項目。授業に取り組まない生徒や欠席が多い場合は、他の教科でも同様の状況が起きている可能性がある。そのため、自分が担当している教科・科目のみで判断するのではなく、組織として、あらかじめそのような場合どのように指導や支援を行うかを決めておくことが重要となることが多い。悩ましい問題であるが、組織として動くことが重要な問題であるので、難しいことは承知の上で書くが、個人で悩むよりみんなで悩んで、生徒のために動くことが大事だと思う。

最初の4点について

以上、つらつらと私見を書いてきたが、最初の4点についてどう考えるかについても以下、示したい。

(1)授業態度や挙手の回数

「主体的に学習に取り組む態度」が、「知識及び技能」、「思考力,判断力,表現力等」の目標達成と関連している以上、授業態度の良さや、挙手の回数が多さが目標と結びついていなければ、評価に加えることは難しい。何度も繰り返すが、あくまでも単元末までに「知識及び技能」及び「思考力,判断力,表現力等」の目標を達成するためにどのような学習を行ってきたかメタ的にも捉えさせるという点が「主体的に学習に取り組む態度」の評価には大事なため、この授業態度や挙手の回数をそのまま「主体的に学習に取り組む態度」の評価とすることは難しいと思われる。

(2) 小テストの結果

小テストは、語彙や文法、表現などと密接に関連しているため、「主体的に学習に取り組む態度」よりもむしろ「知識及び技能」の評価とされることが多い。また、「主体的に学習に取り組む態度」の評価に小テストの結果を用いる場合、以下の2点を考慮する必要がある。

まず、生徒が主体的に「計画・実行・振り返り」というプロセスを経ているかどうか。自分自身、高校生の頃には授業前の休み時間に慌てて覚えて、小テストを何とかクリアした記憶がある。当然、計画や振り返りという意識は全くなかった。指導者側はおそらく、生徒が前日に準備して、少しずつ覚え、最終的に全てを覚えることを期待していると思われる。そのため、「計画・実行・振り返り」というプロセスを経ているかどうか本人に考えさせるのは、「主体的に学習に取り組む態度」の評価として大事なポイントだと思われる。

次に、語彙の定着というポイントからは、単元終了後にある程度の時間が経ってから実施する定期考査やペーパーテストの結果と合わせて「記録として残す評価」とした方が効果が高いのではないかと考えられる。語彙は長期的な記憶として保持することが重要と考えれば、短期的な記憶になりやすい小テストのみを評価に用いると、教師が期待している効果が得られなくなる可能性がある。

以上の点を考慮して、小テストの評価方法について検討することが重要かもしれない(語彙関係は大事なので、少し熱く書いてしまった汗)。

(3) 宿題の提出

宿題についてもよく話題に出るが、まずは単元目標と結びついた宿題かどうかが最初のポイントとなる。例えば、模試が近いからその過去問を宿題に出した場合、当然だが、単元の「知識及び技能」、「思考力,判断力,表現力等」の目標達成との関連は全くない。資格試験や模試の受験と同じように、過去問を解いたりするのも、進路実現等のためには大事な学習だと思われるが、単元の評価とはならない。検定等の資格試験や模試を受けても、その結果が学校の成績とならないのと同じことだと考える。その点は生徒にあらかじめちゃんと説明しておけばいいかと思われる。

2点目は、やはりこれも繰り返しになるが、ただ宿題をやればいいというものではない点である。主体的な「計画・実行・振り返り」というプロセスや、最終的には「知識及び技能」、「思考力,判断力,表現力等」の目標達成に貢献したかどうかが大事である。手間はかかるが、以下の篠ケ谷さんの本などを参考に、本当に時間や労力をかけた効果があるかという視点から捉え直すのも大事だと感じる。
calil.jp

最後に

結構書き込みが長くなったが(いつも通りという指摘は不要)、現在、ChatGPT等のAIの話題が多い。そのような話を聞くたびに常に感じるのは、PythonGoogle Application Script、Visual Basicなどを知っていれば、仕事は早く効率的になるし、早く帰れることだ。しかしプログラミングについては、多くの社会人は学校では学んでおらず、自分で学ばないといけない。多くの人が指摘しているように、どのように「自ら学ぶか」を学ぶことはとても大事だ。3つの資質・能力の1つとして小学校から高校まで、「主体的に学習に取り組む態度」の指導及び評価を行うこととなったが、その意義は大きいと思っている。

それから、東大とBenesseの研究によれば、「勉強法の理解、学習意欲、学習時間」の3つのうち学校の「成績」ともっとも相関が高いのはどれか、小4から高3までの約8000人を調査した結果、「学習法の理解」という結果が出ていたことも記憶に新しい。
https://benesse.jp/kyouiku/202304/20230412-2.html

自分個人としても、尊敬できる方々は、粘り強く、自己調整しながら新たなことを学び、皆に伝えることで社会を少しずつよくされていると感じることも多い。「主体的に学習に取り組む態度」を指導、評価することが、生徒が考え、学ぶ機会を与えることにつながる、その意義を感じてもらえればと思う今日この頃である。