学力差への対応(授業の悩みシリーズ1)

こんにちは。仕事柄、先生方の研修によく参加します。現在授業の悩みは何でしょうか?という問いについては、割と共通した項目があがってくることが多いようです。そのような悩みについて、自分だったらどんな風に考えて授業をしていくか、書いていきたいと思います。

今回は、まず「学力差への対応」です。具体的には、「二極化が進んでいるので、どう対応するか悩んでいます」「英語が苦手な生徒にどう指導すればいいでしょうか」「得意な生徒が暇そうにしているときもあります」などについてどう考えていくか、です。

内容は、
1.良い教え方をしよう。
2.言語活動のデザインを見直してみよう。
3.支援について考えよう。

の3本です(サザエさん?)。

良い教え方をしよう。

ちょっとドキっとする言葉を引用します。

低学力の学校であると判断された場合に決まって採用される方法は、知識中心の学習方法をより厳密に推し進めることである。主体性を重視したアクティブ・ラーニングの方法が採用されることはまずない。
「退屈な授業をぶっとばせ!学びに熱中する教室」マーサ・ラッシュ(2020)新評論

これ、ドキっとしませんか? 例えば、補習の場合はどうでしょうか。「この子たちは、知識が足りないから!」と思い、詰め込み学習に近い、機械的なドリルをしたりしませんか。でもそれって、実は役に立ってない場合が多いんですよね。英単語を20回書いて覚えなさい!という指示を出しても「ええっ、なんで」「疲れるし!」と全然定着に繋がらなかったりします。例えそれをICTを活用して(見かけ上楽しい感じで)行っても、結局は結果が伴わないことも多い気がします。

上記の本に、次の表が載っていました(簡素化してありますが、本の方はもっと詳しく書いてあり、わかりやすいです!)。すごく参考になります。

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教え方と生徒の動機のマトリックス

この表の1番下をみると、学習意欲が低めで、すぐに諦めてしまう生徒は、教え方が「普通」「退屈」だとうまく行かないことを示しています。そりゃ、そうですよね。学習意欲が低めなのですから。だからこそ、生徒には興味が出る言語活動を与えて、その活動をやっているうちに知らず知らずのうちに引き込み、そして、その基礎となる知識・技能に何度も繰り返して触れさせるうちに学ばせる方法を取る必要がでてきます。

この表を見たときに、知らず知らずのうちに自分の中に「まずは基礎学力を定着させるために、練習を!」という面白くない教え方を導く固定観念を持っていることに気付き、ショックを受けました。しかし、この表を見れば、どの生徒にも興味深く、やる気を出す方法が大事だということがすっきりと分かります。この本の第1章にこのことが丁寧に説明されているので、もし興味があったらお読みください。

              ☆

では、どうやったら、「興味深く、やる気を引き出す教え方」ができるのでしょうか。英語の場合は、言語活動のデザインを見直すことが早道だと思います。

言語活動のデザインを見直す

では、言語活動について振り返ってみましょう。外国語の新学習指導要領の目標では、小中高共通して、言語活動を通して資質・能力の育成を図るとされています。そのため、授業における言語活動をどうするかという点が大事になってきます。言語活動とはなんでしょうか。文部科学省の文書では、以下のように述べられています。

言語活動は,言語材料について理解したり練習したりするための指導と区別されている実際に英語を使用して互いの考えや気持ちを伝え合うという言語活動の中では,情報を整理しながら考えなどを形成するといった「思考力,判断力,表現力等」が活用されると同時に,英語に関する「知識及び技能」が活用される。(文部科学省「外国語活動・外国語研修ガイドブック」)

この言語活動を設計する、つまりデザインするときに気をつけるべきポイントがあるんですよね。説明していきます。

デザインの際に気をつけること

言語活動を設計する際に気をつけることがいくつかあります。まずはここを気をつけましょうというポイントですね。簡単に言えば、コミュニケーションの目的や場面、状況を明確にすることですが、少し分析的に考えてみます。

  1. 誰に対して何のためのコミュニケーションなのか(目的)。
  2. いつ、どこでそのコミュニケーションは行われるのか(場面、状況)。
  3. どのように言語材料を提示すべきか(言語材料の提示の工夫)。

1つずつ説明します。

誰に対して何のためのコミュニケーションなのか(目的)。

最初は、目的についてです。誰に対してコミュニケーションを図るのか、なぜ英語で話す必要があるのかという点は、なんでもないように見えて、生徒のモチベーションを上げるために大事な項目なんです。ここに配慮して活動を計画しても、割と当たり前のことなので意識はされないんですが、活動をデザインする上では大事になります。例えば、最近よく使われている指導法としてリテリングがあります。いい活動ですよね。簡単に言えば、教科書の内容をもとに、内容を自分の英語で言ってみる活動です。でもこの活動が「活きてくる」ためには、ただ「Part 3の内容をリテリングしてみよう!」と言っても、それは練習であって、生徒たちには、何のためにリテリングをするのかよく分からないのです。

改善案

このリテリングを次のように指示してみるとどうでしょうか。「これから、みなさんは台湾の生徒とオンラインで交流します。自分たちが学んだlesson5と同じように、台湾の生徒たちも環境問題について学んでおり、みなさんの意見に興味を持っています。まず学んだlesson5の内容を簡単に紹介したあとに、その内容について考えたことを述べてください。全部あわせて10分程度で説明してくれると助かります」などとすると、なぜリテリングをするのか分かりますし、もしその時上手くいかなかったら「今後のためにこのLessonでもリテリングの練習をしよう!」と練習の意義がハッキリしてきます。このように誰に対してなぜその言語活動をするのかということを明確化すると、生徒が取り組みやすくなります。

いつ、どこでそのコミュニケーションは行われるのか(場面、状況)。

目的の次は場面、状況ですね。先程の台湾の生徒との交流についても、「いつどこで」は大切になります。なぜなら、粘り強く自己調整しながら言語活動に取り組むのに必要なことだからです。例えば、先程の台湾の生徒との交流が明日だとします。「明日だから、今日中に準備だ!」そんなことでは、生徒はキレますね(笑)。でもこれを3週間後に設定すれば、自然と生徒たちが自分で計画を立てて取り組む活動になります。生徒も流石に練習は必要だと思うだろうし、原稿も作りたいと思うかもしれないですよね。プレゼンということにすれば、スライドの作成時間も必要です。それを踏まえて計画を立てさせて、途中で一回本番同然でやらせて振り返りの時間を取れば、自己調整もできるようになってきます。
実はこの計画を立てさせる段階で、さまざまな選択が生徒には与えられます。選択権があると段々と活動が「自分ごと」になり、やる気が生まれてくるんです。計画も自分で立てたものだから、ガンバらなくちゃなという気持ちが生まれやすくなります。で、さらに途中で、うまく行ってないことを取り上げて授業でコツを教えてあげると、不思議と先生が「いい人」になるという訳です(^^)/

改善案

改善案としては、上に挙げたとおり、3週間後や1ヶ月など、生徒に十分な時間を取ることです。なので、例えば2学期に扱う単元であれば、夏休みぐらいから計画していけばいいですね(相手も必要ですので、それぐらいの準備期間が先生側にも必要です)。しかし、これを一回やれば、あとは「また来年にこのような機会を作るから、それまで練習を繰り返そう!」としても、生徒も意義が分かっているので、活動に取り組みやすくなると思います。

どのように言語材料を提示すべきか(言語材料の提示の工夫)。

3点目は、言語材料の提示の工夫です。実は言語活動でどの文法事項を使わせるかという点はすごく悩ましい点なのですよね。ねらってもその項目を使ってくれるかどうかは神頼みというところはあります。ただ、分かっているのは、言語材料は、既習のことと比較・対照させながら学ばせると理解しやすいということです。また、さらに新出事項の単語や文法、語法などを中心に活動を考えるだけでなく、7割程度は今までにやってきたこと、習ってきたことを入れていくという視点も必要だということも言えます。7割程度が既習事項であれば、生徒もやりやすくなり、成功体験が増えます。すると嬉しくなっちゃいますね(新出事項は、ちょっとにします)。

改善案

改善案としては、例えば、完了形を学んでいるときには、過去形と比較させるということです。「〇〇をしたことがある」という表現を使う場合に、例えば、"I have been to Iwaki before. For example, ___years ago, I -"という表現を使うように促すと、少しずつどういう場合に完了形を用いて、どういう場合に過去形を用いるかわかります。また、説明と経験を組み合わせると(日本の文化について、1つ自分の経験を踏まえて説明してください)、説明の部分は現在形(お月見は9月に月を見ながら、おだんごを食べる行事です)で、経験は過去形等になります(私は去年の9月もお団子を食べましたが、食べすぎました)。これは文法事項を組み合わせる&既習事項を定着させるということにつながります。
また、リテリングについても考えてみましょう。リテリングをした後に、新出事項や生徒に定着していない表現を使いたくなる質疑応答を入れる、つまり[やり取り]をさせるということも新出事項と既習事項の組み合わせとなります。リテリングは何度も練習することが多く、ある一定の回数以上行えば、生徒はやりやすくなっています。その後に、新出事項や生徒に定着していない表現を使うようなinformation gapやopinion gapを入れた質疑応答を入れてみます。もちろん、新出事項や生徒に定着していない表現なので、英文の一部を入れ替えればできるぐらいの簡単さで導入すれば、質疑応答もそんなに難しくありません。例えば、上の例のように環境問題で、習った内容がMr. Launchの海の保護活動であり、新出事項や生徒に定着していない表現が仮定法だとします。そのときには、"If you were Mr. Launch, what else could you do?" "Oh, if I were him, I would ____." "That's a good idea, but why do you think so?"などと会話を作って、練習をさせてみるのも良いかもしれませんね。

支援について考えよう。

最後は「支援」についてです。支援ときくと、「?」と思うかもしれませんが、高校の外国語の新学習指導要領に入っている言葉です。言語活動が高度化すると、なかなかうまくいかないことが増えてきますよね。そのために、先生の支援が必要になってきます。「支援」ときくと身構えてしまうかもしれませんが、実は自分たちは割と自然にやっているんです。でも、今回はそれに「選択」という視点を加えてみようという話です(選択をさせると「自分ごと」になっていくというのは、上にも書きました)。

ドリルで例えてみます。次のような質問を生徒に投げかけたとします。

"When you have nothing to do on a beautiful Sunday, what do you usually do?"
(気持ちの良い日曜日に何もすることがないとき、普段はあなたは何をしますか?)

これ、そのまま活動としてもいいんですけど、”I usually enjoy riding my bike."とか例を示してあげると、生徒はぐっとやりやすくなります。生徒はenjoy -ingを使えばいいのかな?なんてヒントをもらえている訳です。さらにこの表現を使っても使わなくてもいいし、"I usually go to bed and enjoy napping."なんて例を与えてしまえば、そのまま生徒はパクリそうな気もしますよね(それでもいいと思います)。で、「例に示したのもいいけど、それ以外のも3つぐらい考えてみて!」としてthink-pair-shareさせると、他の人の例も取り入れながら、生徒は活動をしていきます。

その活動は、実は他の人の考えを取り入れていくので、活動のハードルを下げるし、しかもinformation gapがあるので、割と面白い活動になっていきます(同じことを考える生徒同士で「おお!一緒!」と友情も生まれたりします)。こういう風に支援を与えることで、活動がやりやすくなるし、生徒にもやる気が生まれそうです。

プリントの工夫

では、このヒント(例)をプリントの裏に印刷したらどうでしょうか? 見たい生徒だけがプリントの裏を見るでしょうが、その一方で「自分は助けはいらないぜ!」と肩で風をきるようにつっぱっている生徒(?)は支援なしでも活動を行いそうですよね。この考えをさらに進めると、プリントの両面に異なる内容を印刷して、「Aは自分でできる人用、Bは少しヒントが欲しい人用」とすれば選択権がうまれて、やる気を誘う感じになります。Aはちょっと挑戦で、Bを選んでも、楽しく活動に参加できる。これ、生徒はどちらを使うか固定化することにはつながらないんです。なぜなら同じ生徒でも、内容やその時の気分によって、Aに挑戦してみたり、Bで少し楽をしてみたり、そんなこともあっても良いわけですからそういう配慮があるといいですよね。
12/20追記:園元先生より、「スピーキング、ライティングのペアでの帯活動で、裏にヒントになるものを印刷して配っていますが、生徒ってちゃんと見なくても言えるようになりたい、書けるようになりたいという気持ちが働いていくんだな〜って感動します。」というコメントをもらいました。そうなんですよね。最初はヒントを見る生徒も、「見ないでできるようにしよう!」という気持ちが働くことが多いですよね。支援はたくさんあげる。でもどの程度それを活用するのは生徒が選択する、という形がよさそうですね。

教室掲示の工夫

毎回毎回2つもプリントを印刷する暇がないよ!という場合もありますね。ええ、わかります(←自分がそのタイプ!)。そういう時は、2枚程度印刷して、教室掲示すればいいです。黒板に貼ったり、壁に貼ったりして、ヒントあるよーというと、見にきます。直接その場で写すのを禁止すれば、席につくまで頭の中で覚えておかないといけないので、覚えることにもつながりますね。

さらに、プリントも用意する暇がないんだけど!という方は、セーラー万年筆の「(どこでもシート セーラーショップ」はおすすめです。どこでも(黒板でも、ホワイトボードでも、窓でも!)静電気でくっつくので、これとペンをもっていけば、生徒に与えたいヒントをその場で書けて掲示できるし、他のクラスにも剥がしてそのまま持っていけます。便利ですよね。

まとめ

以上、ここまで学力差の対応について、書いてみました。他の方法もあると思いますが、興味深い活動にする、言語活動のデザインを考える、支援のしかたを工夫するという3点で示してみました。また、授業の悩みシリーズを続けて書いてみたいと思います。