授業におけるAIの活用について、いま考えること。

ChatGPT等のAIが生成する英文について様々なことが言われており、その中には批判的なものも含まれている。ときどきSNS上に現れる批判的な意見といえば、以下のようなものがある。

  1. 生成する文字数を指定してもその文字数で書かない。
  2. 生成する英文のレベルを「CEFR A2レベル」等と指示しても、そのレベルにならない。
  3. 生成されたものに嘘が混じっていることがある。
  4. 生成されたものが倫理的問題を含むことがある。

※さらに、上記の指摘以外にも、教育上の問題として「生徒が、AIが生成した英文を無批判に自分の作品として提出し、そこに学びがない可能性」などの指摘があるが、今回は生成された英文に関するものに限定する。

これらの批判が出てくる原因として、おそらくコンテンツ生成を目的としたAIの活用が根底にあるのではないか。この点については、次の2つのSNSの書き込みがヒントとなり、議論がもう少し先に進むのではないかと考えている。その2つの書き込みを紹介した上で、いま考えていることを述べてみたい。

2つの書き込み

先に述べた2つのSNSへの書き込みは以下である。これ以外にもNYtimesの記事もあるが、とりあえずこの2つがいいかもしれない。

Dr.BiralのTweet

まず1番目は、Dr. Biralの一連のTweetである。ChatGPTを、コンテンツ生成ではなく、構造の生成に使うべきと述べている。

"Most people use it to create content. ChatGPT uses a prediction model, so the content will always be predictable. This is NOT an intelligent use of ChatGPT. Instead, use ChatGPT to create structure.(多くの人がChatGPTをコンテンツの作成に使っています。ChatGPTは予測モデルを使うため、その生成するコンテンツは常に予測可能です。これはChatGPTの賢い使い方ではありません。むしろ、ChatGPTは構造生成のために使うのです。)"
ーDr. Biral

具体的な例として、研究のアウトライン、研究の質問のブレインストーミング、様々な原稿の構成、面接やプレゼンテーションの準備などが挙げられている。ChatGPTが提供する構造を参考に、独自のアイデアや内容を加えて自己表現する活用法だ。

しょーてぃさんのNote

2番目は、UXデザイナーのしょーてぃさんのNoteである。このNoteはとてもよかった。ChatGPTについて「共創・創発のための4ノ型」「5DRモデル」を用いて、自分のバイアスを超え、「自分を拡張・深化・発見」することについて述べている(4ノ型などのネーミングはセンスがありすぎる)。

「AIは生成ではなく推論がコア・バリュー。推論能力を味方につけ探索することが、AIとの新しい向き合い方」
ー しょーてぃさん

note.com
特に、Q(x)=q(x)の世界から生成された新しいものという考えに惹かれた。

自分の授業にどう活かすか

以上のことより、自らの授業の構成や発問をempowerするものとしてAIを捉え、AIが生成するものを授業で活用するのは限定的とすれば、あまり無理がないのかもしれない。では、どのように授業の流れや発問をempowerするのにAIを活用するかという点について述べたい。

授業全体の流れ

どのような授業を作れば良いかという点は、よく「授業デザイン」「単元デザイン」という言葉が使われる。指導と評価までを含めてデザインするという考えである。そして、この授業デザイン、単元デザインについては、Instructional Designという学問分野が存在する。IDについては、熊本大学の鈴木先生の記事のまとめが詳しい(クリック)。記事にある通り、IDでは学びの「効果・効率・魅力」の向上を目指す。

このIDには様々な授業の流れのモデルがある。例えばADDIEモデルは特に有名である。それ以外にもGagne's nine events of instruction(ガニエの授業の9事象)などがあり、モデル化が進んでいる。AIは特定の形式に当てはめて構造化するのが得意なので、テキストを示した上で、IDのモデルに当てはまるように考えて欲しいと言えば、かなりのヒントになる。

モチベーションなど

モチベーションについては、ケラーが唱えたARCS-Vモデルなどが有名である。他にもZimmermanらが唱えた自己調整学習の流れ(予見、遂行コントロール、自己省察)や、Fisher & Freyの「責任の移行モデル」などがある。これらのモデルに当てはまるように、Lesson Procedureを作るよう指示すると多くの示唆を得られることがある。

発問

単元または複数の単元にまたがる「真正の問い」(Authentic Question)もIDでも大事なポイントとして捉えられている(稲垣(2023)など)。これもBloom's taxonomyを知っているか?と聞き、テキストを入力した上で、6つの段階に当てはまる発問をそれぞれ5つ示すように指示すると良い。日本の英語教科書はブルームの分類ではLOTSと呼ばれる、記憶、理解、応用に関する発問が多く、HOTSと呼ばれる分析、評価、創造に関する発問は少ないというのは例えば小林・星野(2022)川野ら(2016)などで指摘されている通りである。

特にHOTS(分析、評価、創造)にあたる発問は、かなりのヒントになることが多く、授業の流れ自体を大きく変えることがある。山本(2016)が指摘している通り、これらの発問がないことは、Ken RobinsonがTEDで述べたように「学校は創造性を殺している」ということに他ならない。そのため、HOTSの発問例をAIに出させるこの活用法はオススメである

モデル例

上に、Productを求めるのはどうかという趣旨のことを書いたが、実はタスクで見せる生徒のモデルとなる英文を示すのは割と良い。なぜなら、よくあるステレオタイプなことをAIは出してくるので、可もなく不可もないちょうどいいモデルを出すことが多いからだ(だからこそ、生徒がそのまま使うとつまらない文章になることも多い)。

大村はまは、話し合いの授業をまずは先生が書いた原稿をもとに一度言わせて流れ等を体感させてから、その発言を例として使って話し合い活動をさせている(大村はま全集第二巻)。ディベートやディスカッションをさせる際に、まずは流れに沿ってセリフを書いた原稿を作り、その原稿の通り英語を読ませて、進行させてみると生徒は流れと、特定のタイミングで何を言えばよいかが直感的にわかる(さらに台本の余白にこういう言い方もあるよ、とか顔をあげてみんなを見てから、などのアドバイス等を書くなどの工夫もできる)。それを作るのはこれまでは大変な労力だった。これ、実は、ChatGPTにお願いするとすぐできたりする。これは本当に良い使い方ではないかと思う。

以上、つらつらと書いてみたが、授業におけるAIの活用について少し書いてみた。また追記していきたい。