Wあるいはauwawauについての一省察

alphabetについて結構いろいろと調べている。今日は文字wについて。なぜwはvが二つあるように見えるのに、double-uと呼ぶのか問題である。すぐ答えを知りたい人は英語史で著名な堀田氏のブログに書いてあるので、そちらを参考にしてほしい(クリック)。下はそれを学ぶためにえっちらおっちら調べながら書いたものなので、間違いがあっても笑って許してほしい。いや、許してください。すみません!(うん、先に謝った!)。

はじめに

まずはMatt Baker(UsefulCharts.com)氏のalphabetの歴史をみて振り返りたい。この画像はありがたいことに、Creative Commons BY-SA-NCとライセンスされており、ダウンロードしてPCやzoomなどの壁紙として使用可能である。
https://cdn.shopify.com/s/files/1/1835/6621/files/alphabet-color_09ce9b05-8fc6-475b-af04-a34e5b3314a4.png

諸説あるだろうが、上の図では、F/Y/U/V/Mが同じ文字(セム語のwaw)から分化しているのがわかる。wawについては、wikipediaを参考。また、Vが現在のU, V, Wのすべてを担っていたというのもみて取れる。

同じように、英語版wikipediaのWの項目をみると、次のようなhistoryが載っている。

f:id:karishima:20200614204714p:plain
英語版wikipedia "W"の項目より(https://en.wikipedia.org/wiki/W

やはり、vから分化しているのが分かる(この鳥さんの絵、味がある)。

くわしくみる。

wの音はラテン語などではvで表されていたが、vは有声両唇摩擦音(日本語だったらバ行ですよね)を表すようになった。そのため、walkなどのw音を表すために他の文字が必要になり、7、8世紀ごろに、似た発音の文字を重ねることで表す表現法が生まれた。それが[vv]もしくは[uu]である(その頃はまだv/uは異なる文字と認識されていなかった。この2つの文字の区別には、まだあと1000年ほどの時を待たねばならない)。同時期(といっても4世紀だが)のGothicではwの音を表すのにイプシロンが使われていたらしい(上の図の6番目だ)。小文字をみると、現在のvの筆記体と同じように見える。

で、uを重ねた[uu]だが、2つの文字を使って1つの音を表すのにはやはり抵抗があったのか、イギリスでは現在のpに似た文字のwynnを使用するようになる。Beowulf - Wikipediaをみると最初の単語では、wの音をƿ(wynn)で表されている。例えばwhatは ƿæt と表記されている。

では[uu]は消えたのか? 堀田氏によれば、[uu]はフランス北部のノルマン人に広がっていたという。ノルマン人はwageなどwで始まるゲルマン系の語彙を有していて、やはりwの音を表す語が必要だったのではないだろうか。the root of the name England ("land of Ængle")とwikipediaにも記されているが、Angles人はもともとは現在のデンマークのすぐ下にいた人々であり、体格が良すぎて馬に乗れずに徒歩王と呼ばれたロロが、おそらくデンマーク人かノルウェー人であったことからも推し量られるように、ノルマン人はイギリスにいた人々と言葉や文化をある程度共有していたと想像される。言語についてもまた然りである。

そして1066年のノルマン・コンクエストにより、ノルマン人がイギリスを支配するようになり、wの文字が戻ってきたと先の堀田氏はしている。ノルマン・コンクエストは英語に大きな影響を与えたが(実際、英語はクレオールなのか問題なども出てきている)、文字にも影響を与えていたのである。13世紀には文字wynn(ƿ)は廃れてしまった。wynnの悲劇である。

double-uかdouble-vか。

で、さらに、roundhandなどを確認するに筆記体では、wはvの文字2つではなく、下がカーブで書かれているので、uの文字2つに見える。roundhandの図を良くみると、小文字のwはやはりuが二つ重なっているように見える(whichのwなど)。もともとu/vの区別がつくようになったのは17世紀以降であることから鑑みるに、「double-uでもdouble-vでもどーでも良かった説」もあながち捨てきれない。そして、「いやこれ2文字でしょ!いや1文字でしょ!」問題もきっと真面目な人には深刻だったに違いない。そう思っていたら、英語版wikipediaのwの項目に以下のことが載っていた。16世紀に書かれたものである。

かわいそうな「w」は、悪名高く無名であり、名前も形も多くの人がほとんど知らないほどだ。ラテン語ではwを必要としないのでラテン語派を志す人たちも、ドイツ人も、学校の先生でさえもwの使い方や呼び方を知らない。この文字を「we」と呼ぶ人もいれば、「uu」と呼ぶ人もおり、スワビア人は「auwawau」と呼んでいる。(https://en.wikipedia.org/wiki/Wから訳して引用)

auwawauってなんだよ!?という感じだが、ドイツ語では、wはvを表す。だからVolkswagenは[ˈfɔlksˌvaːɡn̩]と発音される。vがfになり、wがvになっている。文字というのは面白いものだ。とまれ、まだ16世紀では呼び方は定まっていなかったことが推察される。

1755年のJohnsonの辞書ではwの項目で、「学習するアルファベットには見られない文字」と書かれているので、まだ不安定な感じがする。18世紀でも、学校では正式なアルファベットとして認められていなかったようだが、辞書には項目として掲載されていたことが分かる。

1828年のNoah Websterの辞書では、23番目の文字と明確に示されている。「文字の形と名前は2つのVが結合してできたもので、これは我々がUと呼ぶローマ字の大文字の形をしている」とされている(これ訳したはいいけど、ちょっと意味がわかりかねる。どういう意味だろう?)。

堀田氏のブログの「古英語アルファベットは27文字」をみると、OEにuはあるが、vはない。やはりdouble-uと呼ばれるのは、上と合わせて、VとUの区別が曖昧であったこととUのVに対する優位性があったせいではないかと思われる。

結論

果てしなく長くなっているが(見た感じ分からないと思うが、一個一個確認しているので、すごい時間がかかっている)、wは昔一度生まれたが、他の文字にとって変わられ、そしてまたその文字を退けて、復活した。現在のフォントではvを重ねてあるように見えるものの、double-uと呼ばれている。なお、2つのuを重ねると呼んでいるのは英語だけで、他の言語では2つのvと呼ばれている。それには、u/vの区別が割と最近までなかったことや、その書き方の多様性が影響していると思われる。このwの文字が定着するまでに、多くの人が様々な人生を営みながら現在につなげてきたに違いないが、そう思うと、感慨深いものがある。文字に対する興味は尽きない。また調べていきたい。