オンライン授業に移行するときの覚書

コロナウイルスの関係で、これまで対面授業だけしてきた高校でもオンラインで学びを続ける方法を考えないといけないと個人的に感じています。休校のときに見えてきたことを考えながら、いくつかまとめてみたいと思います(なお、これはあくまでも個人的な考えに過ぎないのでご注意下さい)。

このエントリから
オンライン授業のやり方(クリック)
オンライン授業に関するリンク(クリック)
と2つのエントリに分けてますので、そちらもご覧ください。

【4/18 update分】

以下のことをupdateしました。

  1. zoom等を利用した通信量について
  2. 著作権法の変更について
  3. オンライン授業のやり方については別エントリに分けました。

考慮すべき条件など

相手が高校生ということ、さらに学校がこれまで携帯電話の持ち込みや使用を禁止してきた学校もあることを考えて、次のような条件が必要だと考えました。

  1. 環境調査を必ず行う。様々なことを行うにしても、生徒の状況が分からないとうまく対応できません。登校日のアンケート、Classi、 Google form等を使って、生徒の(1)インターネットに常時接続できる機器の有無、あるとしたら何か(ガラケーかsmart phoneかタブレットかPCか)、(2)その機器は自分専用か、親や兄弟と共有か。(3)もし機器がないとしたら、FAXやメールが使えるかどうか(使えなければ電話か郵送しかない)、(4)常時使えるWifiの有無などを聞いて実態を把握しておく必要があります。アンケート例はこちら。
  2. できるだけ「枯れた技術」を使う。「枯れた技術」は安定していて、みんなが使えるメールとか、メッセージとか、結構普段から使っている技術とのことです(枯れた技術 - Enpedia)。新しい技術は、得意な人もいれば、苦手な人もいます。学校全体で導入することを考えると、できるだけみんながこれまで使っているシステムを使う方が良いかもしれません。Zoom, Edmode, Google Classroomも個人的に好きですが、プライバシー上の問題などが報道されている例もあります。比較的新しい技術はできる人にまかせておいて、しばらくしてからみんなが使えるようになればいいねという感じですね。
  3. 通信量を抑えるようにする。動画ではなく、メールやライン、メッセンジャー等の活用をメインにします。高校生の全員がwifiを無制限に使えるわけではありません。高校生も50GB使えるケースもありますが、みんながそうとは限らないので、できるだけ通信量を抑えるよう、工夫した方が良いです。【4/16注記】 ZOOMで1時間授業を行うとだいたい送受信量は200MBみたいです。なので、200MB x 6コマ x 20日と仮にすると、だいたい1ヶ月で24GBぐらいかもしれません(かなりアバウトなので、必ずご自分でご確認ください。詳しくは「オンライン講義の通信量」に述べられています)。
  4. 共通パスワードを設定しておく。様々な文書等を配るとき、動画を配信するときにパスワードが必要になることがあります。学校全体で同じパスワードを使うことを発表しておくといいです(Reiwaとか簡単なものが良いが、自己判断で。)
  5. 環境づくりの際に、全員が参加できる状況になるまで待たないコロナウイルスが出てきて、突然教える状況が変わったので、とりあえずは8割が参加できればという感じで環境を作っていくのがいいと思います。完全なシステムは急にはできません。もちろん条件が揃わず参加できない生徒もいることを常に考慮して(そのうち、パケ制限がかかる生徒も出ることが予想される)、電話や郵送等での対処等のオプションなどを用意して進めれば良さそうです。これまでの経験では、そのうち徐々にいろいろと進み、みんなが参加できるようになっていくと思われます。
  6. 資料はPDFで配布するiPhone等の生徒が多いことを考えると、PDFで公開するのが一番生徒にfriendlyになります。wordとかの文書をそのままダウンロードするのは厳しいと思われます。
  7. 動画は3分から5分。それ以上は通信量が多くなり、生徒も集中できません。1つの教科・科目ならいいですが、全教科で長い動画を毎日発信すると、50GBでも足りなくなると思います。
  8. 生徒はずっとこっちをみていない、集中していないだろうと思っておく(授業ではいちおう聞いてくれますが、家だと他のことをし始めたりします。自分もそうですけど)。動画や課題の配信をしても、生徒は電話があれば電話に出るし、家族から呼ばれれば、そっちに注意が削がれます。家にいれば、それぞれの事情がある。生徒の注意を喚起する方法をちゃんと考える必要があります。
  9. 授業公開であることに注意する。動画や文書を配信する場合も、保護者や兄弟がうしろで見ている可能性も考慮に入れたほうがいいです。言葉遣いなど丁寧に。
  10. 連絡の更新時間を決めておく。連絡等の更新時間が決まってないと、生徒や保護者がいつ連絡を見るべきなのか分からず困ります。例えば、学校全体や学級全体の連絡などは「連絡がある場合は、平日の10:00に行います」と決めていたり、連絡の際に「次は4月○日の午前10:00に更新します」などと予告しておくと無駄なアクセスをしたり、更新されずにイライラしたりするのを防ぐことができます。

まずは規則正しい生活を送るために

個人的にきいたところ、休校になると生徒たちはだいたい8時〜8時半ぐらいに起きるようです。病気に対する免疫や10代のホルモンのことを考えると学習の開始は9時でいいかもしれません(関連記事 「生徒の睡眠時間を確保するため「朝8時以前の始業を禁じる」法案がカリフォルニア州で可決」)。ただ、以前の休校の時に毎日決まった時間に朝礼っぽいことをすることが規則正しい生活をするためには必要だと感じました。

オンライン朝礼の実施
多くの人が指摘しているように、平日は決まった時間にオンライン朝礼をやった方がいいです。方法としては、ZoomやClassiなどで双方向でやる方法、一斉にメールやLineで発信してメールやメッセージ、Google Form等で答えてもらう方法などがあります。健康状態の確認+生徒が返事を書きやすいような、はてなみたいなお題つき質問(「今日は朝ごはん、何食べた?」など)をあげると良いかもしれません。質問の参考例:http://www.roadtogrammar.com/dl/warmers.pdf(英語です)。生徒が互いに答えを見ることができるようにすると割と盛り上がると思います。

授業のやり方(高校の場合を想定)

オンライン授業を行う場合、次のことに気をつけるといいのではないかと思いました。

  1. 課題をPDFなどで公開する。条件2「枯れた技術」を使うことを鑑み、PDFが一番良さそうです。オンライン授業は教科書を使うことが想定されますが、教科書の内容を公開する場合は生徒に対してのみ公開すべきなので、PDFで作成して、パスワードで保護するといいです。具体的に書くと、まずはWordまたはPPTで課題を入れた文書を作成し、それからPDFで保存して配布という感じでしょうか。
  2. 授業は1日4コマ程度から始める。最初から7コマとかすると、教員が追いつかないので、最初は少なめに始めるのが良さそうです。4コマより少なくてもいいと思います。まずは、できる範囲で。うまくいくプロジェクトによくある、「小さく始めて大きくしていく」が鉄則です。
  3. 時間割を決めさせる。学年で1クラスしかなくても、8クラスあっても、学年(またはコース)の時間割は同じにします(どうせオンラインで個々で受けるので、変える必要はない)。週ごとに設定して(月曜日が国数英理社だったら、火曜日は数英理社国とかそんな感じで)リズムを作ってあげると良いでしょう。
  4. 1単位時間ごとの課題は3つは用意する。教科書はみな持っているので、教科書を中心に考えなければできない課題を用意するのがいいですね。R. ガニェの9教授事象を教師および子どもの視点からまとめた下記の図を参照に「学び」を組み立ててみてはどうでしょうか。
    f:id:karishima:20200412084323p:plain
    9教授事象を自身の学びに活かす(稲垣忠編著「教育の方法と技術 主体的・対話的で深い学びをつくるインストラクショナル・デザイン」2019 p.36)
  5. その時間内での締め切りの時間を設定する。締め切りがあると生徒は頑張ります。例えば、授業を火曜日の10時開始と設定したら、課題1は10:15まで、課題2は10:30まで、課題3は10:45までなどと決めておく。生徒は、メールまたはgoogle formなどで答えるようにします。タイムスタンプが付くので、時間内に答えられたかどうかすぐに分かります。遅れたら、ちょっとだけ減点ねーなど、時間内に答えたくなるように刺激を与えるのも良いかもしれません。生徒には、時間になったら解答を配信して、配信後に答えてきたら減点とするとわかりやすいかもしれませんね。
  6. 課題はひとりでやることを必須条件として考えない。言い換えれば、2人組またはグループで答えさせるのも可にするということです。どちらにしても、できないときは生徒は友達に連絡をとってききます(他の先生に聞くこともあるかもしれません)。生徒が常にひとりで課題に向き合うとは限りません。
  7. 課題はいろんなレベルを作っておく「浅いアプローチ」に関連するものだとすぐに答えられるし、「深いアプローチ」に関連するものだと時間がかかる。4:6ぐらいにすると良い気がします(難しい問題ばかりだと生徒も萎える)。例えば、英語だと英文を与えて出す課題はレベルを下記の3つぐらいに分けられます。とっつきやすい問題は答えを生徒がただ交換して(もしかしたら考えずに)提出して終わりとなることもありえますが、「深いアプローチ」になると自分が納得しないとダメだし、理由などを文章にするので、その生徒のオリジナルな答えが求められていることが本人にも分かります。この浅いアプローチと深いアプローチの2つをうまく組み合わせて出すと良さそうです。
  • 「単語リストの空欄を埋めなさい」 割ととっつきやすい(理解、確認)。
  • 「英文のタイトルとして良いものを下の選択肢から1つ選び、なぜそう思ったかその理由も書きなさい」 考える問題(比較、評価、解釈)
  • 「この英文の後でRogersはどのような行動をしたと思われるか」 かなり時間がかかる(仮定、仮説)。
教科書の利用について

【4/16注記】 新しいガイドラインが出ました。
改正著作権法第35条運用指針(令和 2(2020)年度版)
ご確認ください。元記事は下記です。
forum.sartras.or.jp


教科書の内容をそのままオンラインで全員に公開することは著作権上ダメなので、注意する(参考:遠隔授業で教科書利用可能に 改正著作権法、28日施行 (日経、2020/4/10 10:31))。オンラインで公開されても、3/31までと同じように見ることができるのは生徒や同僚のみという状況にする必要が出てきます。3/31までについては、文科省の「新型コロナウイルス感染症対策に伴う学校教育における教科書の円滑な利用について」という文書があり、その中で下記の文言がありました。パスワード処理は必要ですが、パスワードをつけたpdfの中に直接本文をいれておくか、動画の場合はYoutubeなどの動画のリンクをつけ、その中で見せるようにすることが考えられます(Youtubeでは、リンクを知っている人だけみれる設定にします。Vimeoの場合は、パスワード付きで配信)。

当該学校・地区の採択教科書の利用に限り,発行者が権利を有する掲載著作物を利用して作成した授業動画やプリント等を,当該児童生徒に限定して,学校又は教育委員会が自ら責任主体となって行う複製,公衆送信又は配布に対し,特別の配慮として,教科書利用を無償許諾する

※教科書のオンライン公開についてはここを参照:https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/297591
教科書ネット公開可能に 文科省、休校中の特例措置 :日本経済新聞

※4/12に追記しました。