「defeatされた」は、勝ったのか負けたのか。

1 はじめに

知り合いのYouTuber渡部さん(https://www.youtube.com/watch?v=0SB4AftELK0)から、メッセージで「ある生徒が「シスタンのdefeat〜を打ち負かすの名詞の意味が敗北って、意味不明すぎます!」と。辞書には敗北、勝利どっちもあるわけです。。。」とfineなネタを提供いただいた(^^)/。というわけで、調べてみた。では、defeatの意味の両義性について。

2 defeatの意味が名詞と動詞で正反対になるのはなぜか。

2-1 Contronymとは

defeatの意味をおさえる前に、まずはcontronymの説明を。contronymとは何か。下のサイトに以下の説明が上がっている。

a contronym is a single word with two contradictory meanings(contronymとは2つの相反する意味を持つ単語のこと)
https://ielts.com.au/australia/prepare/article-grammar-101-what-is-a-contronym 

これ、日本語なら「適当」が当てはまるかもしれない。適当といった場合、appropriate(適切)なのか、まあまあ(rough and quick)でいいのか迷います。で、上記のサイトには次の82の英単語=contronymが掲載されている(おっとdefeatが示されていない!?)。

apology, aught, bill, bolt, bound, buckle, cleave, clip, consult, continue, custom, dike, discursive, dollop, dust, enjoin, fast, fine, finished, first degree, fix, flog, garnish, give out, go, grade, handicap, help, hold up, lease, left, let, liege, literally, mean, model, off, out, out of, overlook, oversight, peer, presently, put out, puzzle, quantum, quiddity, quite, ravel, refrain, rent, rock, sanction, sanguine, scan, screen, seed, shop, skin, skinned, splice, stakeholder, strike, table, temper, throw out, transparent, trim, trip, unbending, variety, wear, weather, wind up, with

例えばfineであれば、He is fine.といった場合、次の2つの意味がある。
a) 彼はすごくよい。(excellent)
b) 彼は十分だ。(acceptable)

すごくいいのか、十分なのか。"Do you want another coffee?" "Well, I'm fine, thank you."といった場合は「十分」という意味になる。

2-2 defeatの場合

defeatの場合は、strikeと同じような感じではないだろうか。ストライクと日本語で書くと、野球では「打とうとして失敗する」という意味だが、元来はロングマンにもstrike=to hitと出ているように「打つ」という意味である。例文でも"The idea struck me during a meeting.(この考えは、ある会議のときに思いついた)"とかあるように、打つという意味合いが強い。それが、なぜ打ってもいないのに「空振り」を意味する言葉になるのか。
          ◯
これも調べてみると、foul strike(ファウルになったヒット)と呼ばれていたのが、foulが省略されて逆の意味をもつstrikeが残ったとの説が載っている。defeatの場合は

c) They defeated Japan 2-1. 彼らは日本を2-1で破った。
d) Germany was defeated by Sweden 5-1. ドイツはスウェーデンに5-1で敗れた。

みたいな感じで能動態と受動態で意味が逆になる。名詞の「敗北」の意味ははおそらくdから派生したものだと考えられる(ちゃんと掲載されたものがないので、あくまでも想像)。strikeの場合、foulというnegativeな語が省略されて、strikeにその反意語の意味が残ったように、defeatの受け身に必要なbeとbyが省略されて逆の意味になってしまったと考えられる。つまり、省略による意味変化と考えることができる。なので、メインの意味+正反対の意味が残ってしまったのではないかと考える。実際、1600年から現在の能動態と受動態のどちらが優勢かngramで見てみると、以下になっている。名詞がでてきたのは1590年と書かれており、能動態も受動態もそれほど数は変わらない感じだ(やや受け身(赤)が優勢?)。





3 niceの意味から考える。

と、ここまでdefeatの両義を省略から説明してきたが、実は単語の意味は正反対になることも多い。有名なのはniceという単語で、今でこそ「良い」という意味だが、遡ればignorant(無知な)を意味する古フランス語からきている。niceの意味をたどると、堀田先生が下のブログで扱っている通り、13c以前「無知な」→14c「愚かな」→16c「やかましい」→18c「細かい」「精密な」→現在「良い」と全く逆の意味に変化してきている。これは堀田先生のVoicyでも取り上げられているが、形容詞は褒め言葉など使っているとその語があまり極端に響かなくなってくる。そうなると、割と普通の言葉という感覚になってくるので、新しい極端な語を常に必要としていく。例えば、「すごく疲れた」といってもあまり新鮮に響かなくなると、「めっちゃ疲れたー」などと言葉がかわっていく。さらに面白みを加えるために、よく意味が正反対になったりするということが示されている(日本語でも「やばい」が現在では悪い状況ではなく、良い状況を指すこともあるように逆の意味になっている)。で、この意味変化だが、ゆっくりと変化する場合は、途中で「どっちつかず」の状況が多分に発生しやすい。上のniceなら16-17cがどっちかわからない状態だったことが下のブログにも書かれている。

user.keio.ac.jp

そういう意味で、contronymは意味変化の途中で両方とも意味が残っている状況とも考えられる。日本語でも上にあげた「適当」は「ちょうどいい、妥当な」という意味が変化し、「その場を繕う、いい加減な」の意味が強くなってきており、いまはどっちつかずな状況になっている。defeatももしかしたら、これからどちらかの意味が強くなるかもしれない。

4 というわけで

なので、「defeat覚えにくいよ、困ったよ!」問題については、こういう意味になる経緯を誰かに説明すれば覚えられると思うし、同じような語が他にないかと調べていると覚えられる。これを「defeatは打ち負かす(v)と敗北(n)」と脱文脈で覚えるとかなり覚えにくくなるのではないかと思う。というわけで、毎日SNS更新の4日目は、こちらでお伝えしました。明日は、共通テストのレイモンについて!をお送りします!