松井先生の講義をまずは受講してみてはどうか

タイトルは松井先生のブログへのオマージュとして。

tmrowingさんこと、松井先生が文字指導の講義をされていたので、参加しました。今回はその講義の感想です。端的に言えば★★★★★でした(もちろん、五つ星で満点です)。オススメです。

あれから1週間経ったいま、松井先生の文字指導のワークショップに参加した、その余韻を楽しんでいるところです。思えば先生のブログのエントリ「ライティング指導の第一歩は文字指導から。」を読んだのも、もう5年ぐらい前のこととなります。早いものです。

ブログ記事はこちらです。
tmrowing.hatenablog.com

では、講座内容の感想を書きます。

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電子辞書か紙辞書か(授業の悩みシリーズ2)

こんにちは。授業の悩みシリーズ第2弾「電子辞書か紙辞書か」です。これもよく聞かれる質問なんですよね。あくまでも個人の見解ですので、ご理解してお読みください。

具体的には、高校向けで「電子辞書と紙辞書のどちらがいいの?」「そもそも辞書ってどう使うんですか?」などにどう答えるかを書いていきます。
内容は

  1. 辞書の使い方について考えよう。
  2. 辞書使用の効果
  3. 辞書をなぜ使うのか

の3本です(またもやサザエさんか!?)。

辞書の使い方について考えよう。

まず辞書の使い方について考えます。まずそもそも辞書を使うかどうか。「辞書って使うでしょ」と先生方は無意識に思いますよね。でも、中学校の教科書では巻末に単語が意味と一緒に載っています。また高校でも単語一覧を配布する場合もあるかもしれません。辞書を買わせても、明示的にしっかりと使い方を示してないケースもあると聞いています。そういう場合は、「ケータイで単語の意味が分かるのだったら、辞書いらなくない?」と生徒は思うかもしれません。

どんな時に生徒は辞書を使いたくなるんですかねー?

おっと採用2年目で元気溌溂なココロ先生! 今回から登場ですね! そうですね、次の2つですかね?

  1. 読んでいる時に意味の知らない単語に出会って、意味を知りたくなった。
  2. 英語で書いている時に、英語でどう言えばいいのか知りたくなった。

簡単に言えば、この2つではないでしょうか。これ、簡単に言うと、英和と和英ですね。ではもうちょっと深く考えていきます。

辞書使用の効果

辞書を引くときに生徒が期待しているのは、単語の意味を知ることです。「意味がわかれば、この文が理解できる」と思うのですね。そしてその先には、「この文が理解できれば、文章全体の意味及び意図が理解できる」との期待があるのではないかと思います(でも残念ながら、意味理解はそんなに簡単なものではないのですが・・・)。

教える立場からもいろいろな期待がありますよね。生徒が辞書を活用する際に先生たちが期待していることは何でしょうか。

なかなか良い質問ですね。これも分析的に考えてみましょう。次のようなことではないでしょうか?

  • 単語の意味を知る。
  • 発音を知る。
  • 単語の品詞を知り、複数の意味を知る。
  • 例文を読み、語の使い方を調べる。
  • 語彙の学習及び定着につながる。

なるほど。この辺り実際どうなんでしょうか?

先生方は、辞書を使った時に意味を知るだけでなく、付随的に調べた単語の学習を深めて、さらに定着につながることを期待していますね。

うーん、生徒は実際にそんなに深く調べてますかね?

どうでしょう。研究結果をみた方が早そうですね。

というわけで、研究結果をみてみたいと思います。次の2つはどうでしょうか。寺嶋(2005)と米崎(2016)です。寺嶋(2005)はちょっと古いですが、辞書を使う時の反応などに2005年と現在で違いがあるとは思えないので、そのまま参考になると思います。

  1. 寺嶋, 健. (2005). 「英語教育における電子辞書事情 : 先行研究を概観して」(クリック) 言語文化研究, 25(1), 55-71.
  2. 米崎, 啓. (2016). 電子辞書と紙辞書の比較研究 : 検索速度と使用方法について(実証研究,第45回中部地区英語教育学会和歌山大会)(クリック). 中部地区英語教育学会紀要, 45, 111-118. https://doi.org/10.20713/celes.45.0_111

寺嶋(2005)は59ページの「電子辞書に関する実証研究の詳細と結果一覧」が参考になりますね。検索速度、適語到達正答率、定着・保持、読解の4点でまとめています。

検索速度で差が出ていますが、適語到達や定着、読解の差はなさそうですね。

そうですね。検索速度は差が出るけど、他は変わらずという結果が多いように見えますね。

米崎(2016)はどうでしょうか。p.117の考察とまとめが参考になりますね。例文検索の頻度に差がなかったりとかいろいろと興味深い結果が出ていますね。電子辞書か、紙辞書かという議論はいまだに出てきますが、Shizuka(2003)(クリック)が述べているとおり、辞書を使う心理的負担感が高くない電子辞書に分があるのかもしれませんね。

結局はどちらでも生徒は主に単語の和訳を確認という感じですか。

大まかにはそうですね。使い方が同じならやはり検索速度と携帯性、ジャンプ機能などが優れた電子辞書の方に人気が出るでしょうね。

じゃ、電子辞書ですね!

うーん、でもそう言い切るのは早いと思うのです。

どういうことですか?

さあ、どういうことでしょうか。さらに考えを深めてみたいと思います。

辞書をなぜ使うのか

電子辞書か、紙辞書かという話題も大事ですが、もっと大事なのは、なぜ辞書を使うべきなのかということだと思います。上の参考文献にも掲載されていますが、使う場面によって活用したい辞書の機能は色々と異なります。例えば読むときには、本文に集中させたいので、辞書を引くのは必要最低限に抑えて欲しいし(辞書に夢中になると話の筋を忘れてしまいますよね)、単語を集中的に学ぶ際には、品詞や発音まで押さえて欲しくなります。こう書くと、結構先生から生徒に求めるレベルは高いですね(^^;。

でも、その前に自戒を含めて書きますが、辞書を引く際に品詞や発音をなぜちゃんと押さえて方がいいのかなど、説明せずにただ生徒に期待している場合も多いのではないでしょうか。センゲの「推論のはしご」(クリック)じゃないですが、勝手に期待して勝手に裏切られて怒っちゃう人も出てくると思うので、ここは大事なポイントかもしれません。

また、Webを使えば、さらに効率的に学ぶこともできますね。そのあたりも含めて、生徒にしっかりと説明すべきではないかと思うのです。

もっと具体的に知りたいです!

そ、そうですよね。じゃ、少しだけ。

ということで、もう少しだけ考えてみます。生徒が知りたいであろう(先生から見れば、説明すべき)項目を挙げてみます。

  1. なぜ品詞を確認した方がいいの?
  2. なぜ発音を確認した方がいいの?
  3. 絶対覚えるべき単語はどれ?
  4. 英英辞典も使うべきってよく聞くけど、どうして?
  5. なぜ例文も確認した方がいいの?
  6. 辞書はどういう使い方をしたら、効率的に勉強できるの?
  7. 辞書と同時に活用した方が良いWebサービスはどんなのがあるの?
  8. インターネット上にもたくさん辞書あるけど、電子辞書や紙辞書って使うべきなの?

これらの項目については、オリエンテーション等で生徒に伝えて、生徒が自分で考えながら辞書や様々なサービスを目的や用途に合わせて使うようになればいいですね。

でも、これ、全部説明できないです・・・。

あらー。今回は時間がなくなってしまったので、また時期をみて尋ねてください。なお、学習指導要領p.134の配慮事項のところに「中学校で身に付けた使い方を基礎として,辞書を効果的に活用できるようにすること」と書いてあるので、これは研鑽を積みたいところでもありますね。

了解です。がんばります!

というわけで、辞書1つにとってもいろいろとあるなあと思う次第でした。現場からは以上です。さりゅ!

個別最適な学びと協働的な学び、そしてICT

今日の気になったサイトです。

(1)カタリストというサイト

カタリストというサイト。Catalystといえば、触媒。このサイトは、非常に分かりやすいinfographicsを示してくれている。例えば、評価については、下記のようなpdfを示してくれている。
catalyst-for-edu.org

このサイトが今回出してくれて、分かりやすいのはこれ。「令和の日本型教育」。やっぱりちゃんと通知を読まないとだけど、通知の中で示されたものの中には反省すべきことも多々ある。
catalyst-for-edu.org

今回、特に注目したいのは、これだ。
https://catalyst-for-edu.org/wp-content/uploads/2021/03/%E4%BB%A4%E5%92%8C%E3%81%AE%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9E%8B%E6%95%99%E8%82%B2_%E7%AD%94%E7%94%B3-12.png

個別最適な学びと協働的な学びの往還。それを可能にするのはICT。というわけで、ICTについて。

(2)教育ICT利活用の目的 9類型

では、ICTはどんな風に使えるのか? そう思っていたら、教育ICTリサーチ ブログが9類型にまとめてくれていた。特にこのサイトの最後の図でまとめられるが、ICTは先生が使う授業支援ツールなのか、生徒が使う思考・表現ツールなのか。特に類型7を中心に、昨日書いた「システム思考」で読み解いていきたい。

blog.ict-in-education.jp

(3)文科省「外国語の指導におけるICTの活用について」

外国語の指導におけるICT活用についても文科省がまとめてくれている。

動画は下にあるとおりだが、pdfでちゃっちゃか見たいという人は、こちらをクリック。コロナ禍において外国の訪問が難しい中、外国の生徒とどのように交流させるかという点については、計画的に行わないと難しいと感じる。昨日紹介したリクルート総研のCareer Gaidanceでは堀尾先生の記事(クリック)が掲載されていて、この記事でも外国との交流について書かれている。同時にCEFR-Jで公開されている「オンデマンド・研究実践発表動画」(クリック)でも目白研心中学校高等学校の水野先生の動画にヒントがある(発表内容もとても興味深い)。こちらも合わせてみればいいのではないかと思う。

1) 文科省「外国語の指導におけるICTの活用について」
www.youtube.com

2) 米原高校堀尾先生の記事
souken.shingakunet.com

3) CEFR-Jの水野先生の動画
www.youtube.com

現場からは以上です。

「創造的思考力を育てる書かない小論文指導」を読まない。

題は冗談です(笑)。「創造的思考力を育てる書かない小論文指導」読了。リクルートのCareer Guidanceに載っていた神崎氏の記事。下のリンクから読むことができる。ちょうど、論理性についてどう教えるか考えている時だったので、タイムリー。

個人的には、第3回ぐらいから面白くなった。第3回のキーワードはバックキャスティング、テトラッド。そして第4回は、「知ってるつもり 無知の科学」、第5回はシステム思考、最終回は因果ループ図、スペキュラティブデザイン、アブダクション仮説と訳のわからない用語でいっぱいだが、システム思考につながる用語。つまり、この連載では小論文指導とあわせてシステム思考についても情報を得られる。小論文指導といっても、大人に関して言えば、それを活用して問題解決に当たれるので、知って損はない。それぞれちょっと感想を述べます。

souken.shingakunet.com

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英語教育2021年3月号

大修館「英語教育」の3月号について。せっかく毎月英語教育を買っているのに、outputをしないと内容を忘れるし、もったいないと思うようになってきたので、できるだけ毎月書いていきたいと思います。

英語教育2020年3月号 - 株式会社大修館書店

3月号の記事で気になった投稿は以下。

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便利なサイト等

リンク集です。適宜加えていきます。

役に立つアプリ集(2022)

アプリについて、Twitter上でまとめられている方がいらっしゃいました。全部とても便利です。確認ください。

コーパス

コーパスとは、「言語学において、自然言語処理の研究に用いるため、自然言語の文章を構造化し大規模に集積したもの」(by wikipedia)です。ざっくり言うと、例文集と捉えてもいいかもしれません。

English Corpora: most widely used online corpora. Billions of words of data: free online access
COCA、BNC、Google Ngramなどへのリンク集。便利。GloWbEでは、国ごとの使用頻度などの比較等もできます。

SKELL
Webから用例を探してくれます。共起語を探したり、similar wordsを探せる。なかなか使い勝手もいいです。

Interesting Things for ESL/EFL Students (Fun English Study)
ESL学習用のサイト。こちらも用例を示してくれます。主な英文には音声もあります(スピードも変えられる)。オススメです。

Home | SCoRE
教育用例文コーパス。文法項目ごとに、日本人中高生向けの英文を初級・中級・上級のレベル別示してくれるサイトです。

https://mmsankosho.com/gsearch/
私立大学文法問題コーパス(?)。過去10年間の問題が文法形式ごとに納められています。

語彙レベル等について

Test Your Vocabulary Online With VocabularySize.com – Free tools to measure your students' vocabulary size
140語の単語の意味を、日本語4択で意味を選んでいくと、語数が計測できます。

Lognostics Tools
V_YesNoというプログラムで計測できます。200語出てきます(^^)/

VST (computer/test )
Webでも、印刷してもできます。上に比べてより詳細に計測できます。

ANC_Frequency_Dictionary(3000 words)
American National Corpusを活用した語彙リスト。

New General Service List Project
NGSLのサイト。

■ [新JACET8000とSVL12000の語彙、英文カバー率の比較 | えいらく
JACET800とSVL12000をCEFR-Jなどの語彙リストと比較したり、洋書や英検などのカバー率がどちらが高いか比較したサイト。秀逸。


参考文献:中田・内原「新しい日常における英語語彙指導・2---新しい学習方略指導と語彙テストの観点から」(大修館「英語教育」2020年12月号)

Reading関係

CVLA: CEFR-based Vocabulary Level Analyzer (ver. 2.0)
テキストの語彙のCEFRレベルを教えてくれるサイト。Reading / Listening別に分かります。(Ver2.0になっているので、リンク先を変更。Mar. 9, 2021)

New Word Level Checker
New Word Level Checker. JACET8000/SVL12000/NGSL/CEFR-Jでの英文レベルを算出するサイトです。

Word Cloud Generator
テキストの中の語彙を出現回数にしたがってサイズを変更して、Tag cloudsが作れるサイト。キーワードが出現数が多ければ大きく示されるので、単元の最初に生徒が内容を予想するのに使えます。詳しくはここ

Language Research - Home
English Profileのサイト。いくつかの機能はこちらでないと正しく出ません。

走っちゃう? Dicto-Run = dicto-gloss + shuttle run - arishima.info
Dictoglossについて説明したエントリです。もしよかったら、どうぞ。

British Council LearnEnglish Teens | Free resources for teens to help improve your English
British Councilの4技能ごとに学べる10代のためのサイト。

177 Questions to Inspire Writing, Discussion, Debate and Reflection - The New York Times
敬愛するtmrowingさんに紹介頂いたサイトです。視野を広げるのに最適と述べられています。

Writing関係

Write & Improve with Cambridge
泣く子もだまるWrite and Improve. 自動でレベル判定をしてくれます。レベル別のタスクもいっぱいあります。

Write & Improve with Cambridge
泣く子もだまるWrite and Improve. 自動でレベル判定をしてくれます。レベル別のタスクもいっぱいあります。

Listening関係

Randall's ESL Cyber Listening Lab - English Listening
無料。たくさん聞く素材があります。レベル別に分かれていて、クイズや聞いた後の質問なども書いてあります。オススメ。

Online English Lessons | English Videos
人気のあるリスニング向けサイト。無料でも使えますが、有料にすると様々なサービスを受けれます。

Online異文化交流

無料で利用できるオンラインの異文化交流のサイト。
 
https://education.skype.com/p/notes?fbclid=IwAR0dY8tEEIEp-Cus0SH0EZhn1nx8maEi4BCi94tXmG39eSu2V9yy0kmhc-w
Skypeで異文化交流のサイト。

Colorbath | 想いをカタチに、未来をつむぐ
海外の学校とインターネットを通じてリアルタイムに国際交流する「Web交流プログラム」など、様々なプログラムがある。

https://kacultures.org/japanese
日米の高校生をつなげるプログラム。応募が1月なので、気をつけて。

オンラインリソース

無料で使えるサイトです。ただし、ご利用にはきちんとCopyright等をお読みください。
 
Voice of America - Learn American English with VOA Learning English
Voice of America の Learning Englishのページ。

Wikijunior - Wikibooks, open books for an open world
Wikipediaの12年生までのテキスト。

便利なアプリ

iPhoneで使える便利なアプリの紹介です。
 
商品トップ | 一太郎Pad - スマホやタブレットと連携 一太郎Pad登場! | ジャストシステム
一太郎pad。カメラで写した写真の中の英語・日本語をテキストに変換してくれます。便利です。

‎Etymonline English Dictionary on the App Store
単語の語源を教えてくれるサイトのアプリ版です。

QRコード

QRコード作成【無料】作り方/QRのススメ
QRコードを無料で作れるサイト。下のサイトで短縮URLを作ってからでもいいかもしれません。

URL Shortener - Short URLs & Custom Free Link Shortener | Bitly
bit.lyの短縮URLを作れるサイト。少し下の方にあるので、アクセスしたらスクロールしてみてください。

PDF

PDFをつなげたり、いろいろとしたいときに使えるサイト。
 
PDF24 Tools: 無料で使いやすいオンラインPDFツール
オンラインでPDFの操作ができるサイト

無料でPDFファイルをWordやExcelファイルに変換するネットサービス「PDF to Word」&「PDF to Excel」 - GIGAZINE
PDFをWordにしたり、Excelにしたりするサイトの紹介です。

学力差への対応(授業の悩みシリーズ1)

こんにちは。仕事柄、先生方の研修によく参加します。現在授業の悩みは何でしょうか?という問いについては、割と共通した項目があがってくることが多いようです。そのような悩みについて、自分だったらどんな風に考えて授業をしていくか、書いていきたいと思います。

今回は、まず「学力差への対応」です。具体的には、「二極化が進んでいるので、どう対応するか悩んでいます」「英語が苦手な生徒にどう指導すればいいでしょうか」「得意な生徒が暇そうにしているときもあります」などについてどう考えていくか、です。

内容は、
1.良い教え方をしよう。
2.言語活動のデザインを見直してみよう。
3.支援について考えよう。

の3本です(サザエさん?)。

良い教え方をしよう。

ちょっとドキっとする言葉を引用します。

低学力の学校であると判断された場合に決まって採用される方法は、知識中心の学習方法をより厳密に推し進めることである。主体性を重視したアクティブ・ラーニングの方法が採用されることはまずない。
「退屈な授業をぶっとばせ!学びに熱中する教室」マーサ・ラッシュ(2020)新評論

これ、ドキっとしませんか? 例えば、補習の場合はどうでしょうか。「この子たちは、知識が足りないから!」と思い、詰め込み学習に近い、機械的なドリルをしたりしませんか。でもそれって、実は役に立ってない場合が多いんですよね。英単語を20回書いて覚えなさい!という指示を出しても「ええっ、なんで」「疲れるし!」と全然定着に繋がらなかったりします。例えそれをICTを活用して(見かけ上楽しい感じで)行っても、結局は結果が伴わないことも多い気がします。

上記の本に、次の表が載っていました(簡素化してありますが、本の方はもっと詳しく書いてあり、わかりやすいです!)。すごく参考になります。

f:id:karishima:20201215081355p:plain
教え方と生徒の動機のマトリックス

この表の1番下をみると、学習意欲が低めで、すぐに諦めてしまう生徒は、教え方が「普通」「退屈」だとうまく行かないことを示しています。そりゃ、そうですよね。学習意欲が低めなのですから。だからこそ、生徒には興味が出る言語活動を与えて、その活動をやっているうちに知らず知らずのうちに引き込み、そして、その基礎となる知識・技能に何度も繰り返して触れさせるうちに学ばせる方法を取る必要がでてきます。

この表を見たときに、知らず知らずのうちに自分の中に「まずは基礎学力を定着させるために、練習を!」という面白くない教え方を導く固定観念を持っていることに気付き、ショックを受けました。しかし、この表を見れば、どの生徒にも興味深く、やる気を出す方法が大事だということがすっきりと分かります。この本の第1章にこのことが丁寧に説明されているので、もし興味があったらお読みください。

              ☆

では、どうやったら、「興味深く、やる気を引き出す教え方」ができるのでしょうか。英語の場合は、言語活動のデザインを見直すことが早道だと思います。

言語活動のデザインを見直す

では、言語活動について振り返ってみましょう。外国語の新学習指導要領の目標では、小中高共通して、言語活動を通して資質・能力の育成を図るとされています。そのため、授業における言語活動をどうするかという点が大事になってきます。言語活動とはなんでしょうか。文部科学省の文書では、以下のように述べられています。

言語活動は,言語材料について理解したり練習したりするための指導と区別されている実際に英語を使用して互いの考えや気持ちを伝え合うという言語活動の中では,情報を整理しながら考えなどを形成するといった「思考力,判断力,表現力等」が活用されると同時に,英語に関する「知識及び技能」が活用される。(文部科学省「外国語活動・外国語研修ガイドブック」)

この言語活動を設計する、つまりデザインするときに気をつけるべきポイントがあるんですよね。説明していきます。

デザインの際に気をつけること

言語活動を設計する際に気をつけることがいくつかあります。まずはここを気をつけましょうというポイントですね。簡単に言えば、コミュニケーションの目的や場面、状況を明確にすることですが、少し分析的に考えてみます。

  1. 誰に対して何のためのコミュニケーションなのか(目的)。
  2. いつ、どこでそのコミュニケーションは行われるのか(場面、状況)。
  3. どのように言語材料を提示すべきか(言語材料の提示の工夫)。

1つずつ説明します。

誰に対して何のためのコミュニケーションなのか(目的)。

最初は、目的についてです。誰に対してコミュニケーションを図るのか、なぜ英語で話す必要があるのかという点は、なんでもないように見えて、生徒のモチベーションを上げるために大事な項目なんです。ここに配慮して活動を計画しても、割と当たり前のことなので意識はされないんですが、活動をデザインする上では大事になります。例えば、最近よく使われている指導法としてリテリングがあります。いい活動ですよね。簡単に言えば、教科書の内容をもとに、内容を自分の英語で言ってみる活動です。でもこの活動が「活きてくる」ためには、ただ「Part 3の内容をリテリングしてみよう!」と言っても、それは練習であって、生徒たちには、何のためにリテリングをするのかよく分からないのです。

改善案

このリテリングを次のように指示してみるとどうでしょうか。「これから、みなさんは台湾の生徒とオンラインで交流します。自分たちが学んだlesson5と同じように、台湾の生徒たちも環境問題について学んでおり、みなさんの意見に興味を持っています。まず学んだlesson5の内容を簡単に紹介したあとに、その内容について考えたことを述べてください。全部あわせて10分程度で説明してくれると助かります」などとすると、なぜリテリングをするのか分かりますし、もしその時上手くいかなかったら「今後のためにこのLessonでもリテリングの練習をしよう!」と練習の意義がハッキリしてきます。このように誰に対してなぜその言語活動をするのかということを明確化すると、生徒が取り組みやすくなります。

いつ、どこでそのコミュニケーションは行われるのか(場面、状況)。

目的の次は場面、状況ですね。先程の台湾の生徒との交流についても、「いつどこで」は大切になります。なぜなら、粘り強く自己調整しながら言語活動に取り組むのに必要なことだからです。例えば、先程の台湾の生徒との交流が明日だとします。「明日だから、今日中に準備だ!」そんなことでは、生徒はキレますね(笑)。でもこれを3週間後に設定すれば、自然と生徒たちが自分で計画を立てて取り組む活動になります。生徒も流石に練習は必要だと思うだろうし、原稿も作りたいと思うかもしれないですよね。プレゼンということにすれば、スライドの作成時間も必要です。それを踏まえて計画を立てさせて、途中で一回本番同然でやらせて振り返りの時間を取れば、自己調整もできるようになってきます。
実はこの計画を立てさせる段階で、さまざまな選択が生徒には与えられます。選択権があると段々と活動が「自分ごと」になり、やる気が生まれてくるんです。計画も自分で立てたものだから、ガンバらなくちゃなという気持ちが生まれやすくなります。で、さらに途中で、うまく行ってないことを取り上げて授業でコツを教えてあげると、不思議と先生が「いい人」になるという訳です(^^)/

改善案

改善案としては、上に挙げたとおり、3週間後や1ヶ月など、生徒に十分な時間を取ることです。なので、例えば2学期に扱う単元であれば、夏休みぐらいから計画していけばいいですね(相手も必要ですので、それぐらいの準備期間が先生側にも必要です)。しかし、これを一回やれば、あとは「また来年にこのような機会を作るから、それまで練習を繰り返そう!」としても、生徒も意義が分かっているので、活動に取り組みやすくなると思います。

どのように言語材料を提示すべきか(言語材料の提示の工夫)。

3点目は、言語材料の提示の工夫です。実は言語活動でどの文法事項を使わせるかという点はすごく悩ましい点なのですよね。ねらってもその項目を使ってくれるかどうかは神頼みというところはあります。ただ、分かっているのは、言語材料は、既習のことと比較・対照させながら学ばせると理解しやすいということです。また、さらに新出事項の単語や文法、語法などを中心に活動を考えるだけでなく、7割程度は今までにやってきたこと、習ってきたことを入れていくという視点も必要だということも言えます。7割程度が既習事項であれば、生徒もやりやすくなり、成功体験が増えます。すると嬉しくなっちゃいますね(新出事項は、ちょっとにします)。

改善案

改善案としては、例えば、完了形を学んでいるときには、過去形と比較させるということです。「〇〇をしたことがある」という表現を使う場合に、例えば、"I have been to Iwaki before. For example, ___years ago, I -"という表現を使うように促すと、少しずつどういう場合に完了形を用いて、どういう場合に過去形を用いるかわかります。また、説明と経験を組み合わせると(日本の文化について、1つ自分の経験を踏まえて説明してください)、説明の部分は現在形(お月見は9月に月を見ながら、おだんごを食べる行事です)で、経験は過去形等になります(私は去年の9月もお団子を食べましたが、食べすぎました)。これは文法事項を組み合わせる&既習事項を定着させるということにつながります。
また、リテリングについても考えてみましょう。リテリングをした後に、新出事項や生徒に定着していない表現を使いたくなる質疑応答を入れる、つまり[やり取り]をさせるということも新出事項と既習事項の組み合わせとなります。リテリングは何度も練習することが多く、ある一定の回数以上行えば、生徒はやりやすくなっています。その後に、新出事項や生徒に定着していない表現を使うようなinformation gapやopinion gapを入れた質疑応答を入れてみます。もちろん、新出事項や生徒に定着していない表現なので、英文の一部を入れ替えればできるぐらいの簡単さで導入すれば、質疑応答もそんなに難しくありません。例えば、上の例のように環境問題で、習った内容がMr. Launchの海の保護活動であり、新出事項や生徒に定着していない表現が仮定法だとします。そのときには、"If you were Mr. Launch, what else could you do?" "Oh, if I were him, I would ____." "That's a good idea, but why do you think so?"などと会話を作って、練習をさせてみるのも良いかもしれませんね。

支援について考えよう。

最後は「支援」についてです。支援ときくと、「?」と思うかもしれませんが、高校の外国語の新学習指導要領に入っている言葉です。言語活動が高度化すると、なかなかうまくいかないことが増えてきますよね。そのために、先生の支援が必要になってきます。「支援」ときくと身構えてしまうかもしれませんが、実は自分たちは割と自然にやっているんです。でも、今回はそれに「選択」という視点を加えてみようという話です(選択をさせると「自分ごと」になっていくというのは、上にも書きました)。

ドリルで例えてみます。次のような質問を生徒に投げかけたとします。

"When you have nothing to do on a beautiful Sunday, what do you usually do?"
(気持ちの良い日曜日に何もすることがないとき、普段はあなたは何をしますか?)

これ、そのまま活動としてもいいんですけど、”I usually enjoy riding my bike."とか例を示してあげると、生徒はぐっとやりやすくなります。生徒はenjoy -ingを使えばいいのかな?なんてヒントをもらえている訳です。さらにこの表現を使っても使わなくてもいいし、"I usually go to bed and enjoy napping."なんて例を与えてしまえば、そのまま生徒はパクリそうな気もしますよね(それでもいいと思います)。で、「例に示したのもいいけど、それ以外のも3つぐらい考えてみて!」としてthink-pair-shareさせると、他の人の例も取り入れながら、生徒は活動をしていきます。

その活動は、実は他の人の考えを取り入れていくので、活動のハードルを下げるし、しかもinformation gapがあるので、割と面白い活動になっていきます(同じことを考える生徒同士で「おお!一緒!」と友情も生まれたりします)。こういう風に支援を与えることで、活動がやりやすくなるし、生徒にもやる気が生まれそうです。

プリントの工夫

では、このヒント(例)をプリントの裏に印刷したらどうでしょうか? 見たい生徒だけがプリントの裏を見るでしょうが、その一方で「自分は助けはいらないぜ!」と肩で風をきるようにつっぱっている生徒(?)は支援なしでも活動を行いそうですよね。この考えをさらに進めると、プリントの両面に異なる内容を印刷して、「Aは自分でできる人用、Bは少しヒントが欲しい人用」とすれば選択権がうまれて、やる気を誘う感じになります。Aはちょっと挑戦で、Bを選んでも、楽しく活動に参加できる。これ、生徒はどちらを使うか固定化することにはつながらないんです。なぜなら同じ生徒でも、内容やその時の気分によって、Aに挑戦してみたり、Bで少し楽をしてみたり、そんなこともあっても良いわけですからそういう配慮があるといいですよね。
12/20追記:園元先生より、「スピーキング、ライティングのペアでの帯活動で、裏にヒントになるものを印刷して配っていますが、生徒ってちゃんと見なくても言えるようになりたい、書けるようになりたいという気持ちが働いていくんだな〜って感動します。」というコメントをもらいました。そうなんですよね。最初はヒントを見る生徒も、「見ないでできるようにしよう!」という気持ちが働くことが多いですよね。支援はたくさんあげる。でもどの程度それを活用するのは生徒が選択する、という形がよさそうですね。

教室掲示の工夫

毎回毎回2つもプリントを印刷する暇がないよ!という場合もありますね。ええ、わかります(←自分がそのタイプ!)。そういう時は、2枚程度印刷して、教室掲示すればいいです。黒板に貼ったり、壁に貼ったりして、ヒントあるよーというと、見にきます。直接その場で写すのを禁止すれば、席につくまで頭の中で覚えておかないといけないので、覚えることにもつながりますね。

さらに、プリントも用意する暇がないんだけど!という方は、セーラー万年筆の「(どこでもシート セーラーショップ」はおすすめです。どこでも(黒板でも、ホワイトボードでも、窓でも!)静電気でくっつくので、これとペンをもっていけば、生徒に与えたいヒントをその場で書けて掲示できるし、他のクラスにも剥がしてそのまま持っていけます。便利ですよね。

まとめ

以上、ここまで学力差の対応について、書いてみました。他の方法もあると思いますが、興味深い活動にする、言語活動のデザインを考える、支援のしかたを工夫するという3点で示してみました。また、授業の悩みシリーズを続けて書いてみたいと思います。